ランク7ダンジョン編1
部屋に入ると、甘い香りがした。そのにおいの正体は、エリシアが食べているホットケーキだった。白い雲みたいに盛られたホイップクリームの上に、ブルーベリーやラズベリーといった色鮮やかなフルーツたちが、宝石みたいに飾り付けられたやつだ。三時のおやつにしては少し早い。とんでもない飯テロだ。
「よく来てくれたわね。あなたに来てもらったのは、またちょっと任せたい仕事があるからよ。ヴィクターと一緒にダンジョンへ行ってほしいのよ」
「ちなみに、ランクはいくつですか?」3だといいなとは思っている。しかしこの人がランク3ダンジョンでの仕事なんかで、わざわざ呼び出したりするわけがないということもわかっている。
「暫定ランクは7よ」
「無理です、嫌です。お断りします」
「私のお願いに返していい答えは、イエスかはい喜んでだけよ」
「いやいや、本当に無理ですからね。そもそも俺、ランク3だからランク7のダンジョンにそもそも入れないですよ」
ダンジョンには1~8のランクがそれぞれ割り振られている。そのうち6~8は上級ランクと呼ばれていて、入場制限もかけられている。特にランク7に関して言えば、「ランク5以下のハンターは進入禁止」というきまりがある。つまり、ランク3の俺は入れないわけだ。
「大丈夫、あなたは今日からランク7よ」そう言って彼女は、引き出しから一枚のカードを取り出す。それは、俺のハンター認定証だった。
彼女から認定証を受け取って、内容を読む。そこに書いてある俺のランクは間違いなく7となっている。
「いやこれ、犯罪でしょ! 捕まりますよ、エリシアさん」ハンター認定証の偽造は犯罪だ。
「人聞きの悪いこと言わないでちょうだい、ちゃんと本物だから」
「いやいや、本物なわけないでしょ」
ハンターの昇給には二つ条件がある。一つは、目指すランクのダンジョンから三回、オールドパーツを持ち帰ること。もう一つにはランク認定試験を受けること。
俺がランク7のダンジョンに入ったこともないし、認定試験も受けていない。よって、この認定証は偽装されたものとしか考えられない。
「とうとうやっちまいましたね、エリシアさん。今までお世話になりました」
「ちょっと、私は本当に不正なんかしてないわよ! 私の推薦で仮の認定証を発行させたの! ギルドマスターにはその権限があるの」
「え? ああ、そういうことだったんですか」ギルドマスターにはそんなことができるのか。初めて知った。
「そうよ。まったく、私が不正なんてするわけないでしょ。あんまり失礼なことばかり言ってると、冷凍するわよ!」
彼女は険しい表情を浮かべながら、ホイップクリームがたっぷりのったホットケーキを一口食べる。もしかして暴飲暴食の原因はストレスなのかな、とそれを見ながら思う。
「いやまあ、本物ならいいんですけど・・・・・・。いや、よくないですね!! ランク7のダンジョンに入れとか、殺す気ですか? 死にますからね、まじで」
「前にも言ったと思うけれど、あなたはいつまでランク3でくすぶっているつもりなの? あなたほどの実力があるならもういい加減、上のランクに挑戦すべきでしょう」
「それはそうかもしれないですけど、いきなり3から7はひどすぎるでしょ! せめて、5でしょ」
「仕方ないでしょ、今回たまたま持て余した仕事がランク7だったんだから」
「今、持て余したって言いました? まさか、持て余して困ってた仕事を俺とヴィクターに押し付けたわけじゃないでしょうね?」
彼女は目を逸らす。「そんなこと、言ってないじゃない」
「いや、目がそう語ってますよ」
「し、しかたないでしょ! 私だって、いろいろあるの! 今回のだって、探索協会の会長にむりやり押し付けられて、どうしようもなかったの。もう、あなたしか頼れる人がいないの。ええわかったわ、報酬を倍にする。もともとの報酬が100万メルシュだけど、それが200万メルシュになるのよ。どう、悪くないでしょ?」
お金の問題ではない。そもそも俺の手に負えないのだ。ランク3ダンジョンという、ぬるい環境に甘んじてきた俺に実力などあるわけがない。一応、切り札のようなものはあるが、それだけでランク7ダンジョンから生きて帰れるとは思えない。
「しかもあなたは今回、戦う必要がないわ。今回の仕事にはあなたとヴィクターの他にも、ランク7のハンターが四人、ついてくるもの。あなたの仕事は主に、ヴィクターの通訳よ」
「え? そうなんですか?」
ランク7ハンターが四人も。それなら別に彼らだけで行けばいいではないか、とも思うが何かわけがあるのだろう。そのわけがどういうものであるかはともかく、ランク7のハンターが四人いて、そこにあのヴィクターが加わるわけだ。
ランク7のダンジョンで三年間暮らしたという実績を持つヴィクターのことだ。間違いなく、ランク8相当の実力を持っているはず。それにランク7ハンター四人がついてくるならば、俺は何もしなくていいのではないか? 後ろに突っ立って、仲間の回復をしているだけで200万メルシュもらえるというのは、なかなかおいしい話なのでは。
最初はクソみたいな仕事を押し付けられただけかとも思ったが、さすがエリシア、サポートが手厚い。彼女のことをやばい仕事ばかり振ってくるスパルタ女だと思っていたが、それはどうやら誤解だったらしい。
「なんだ、それを早く言ってくださいよ。てっきり、ヴィクターと二人だけでランク7ダンジョンに放り込まれるかと思ったじゃないですか」
「そんなことするわけないでしょ」
「それならやりますよ。で、何をしてくればいいんですか?」
「今回行ってもらうダンジョンなんだけど、調査がまだ十分ではなくてまだ暫定としてランク7になっているだけなの。だからあなたたちに改めてダンジョンに行ってもらって、ランクの査定をしてもらいたいの」
してみると、場合によってはランクが8へ上がったり、逆に6に下がることもあるわけか。実際のランクがどうなるかは、俺たちの査定次第になるわけだ。
とにかく、問題はないだろう。やばいと思ったら、すぐ帰ってくればいいだけだし、何より心強い味方が五人もいる。そして俺は多少のダメージでは死なない。何も危ないところはない。
ここまで読んでいただけて、本当にうれしいです! ありがとうございます。ジョンが新キャラたちとどんなやりとりをするのか気になる方は、ぜひ次の話もおよみいただけるとうれしいです。日付は未定ですが、明日の夜11時30分に投稿予定です。よろしくお願いします!
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