表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/15

コミュ障ハンター編6

 バムトが歩いてこちらへ近づいて来る。


 改めて見ると、彼は威圧感のある男だった。身長は俺より頭一つ分高くて、顔を覆う赤いひげが、まるで猛獣か何かのように彼を見せていた。


 俺に有利な点があるとすれば、どれだけダメージを受けても負けることはない、ということか。もちろん痛いが、相打ちになったとしても俺は必ず生き残ることができる。


 腰に帯びていた剣を抜く。


「なんだ、俺とやる気なのか?」バムトは言う。


「やりたくないがな」


 自分の体に自動(オート)ヒールをかける。この魔法をかけている間、傷は自動で回復する。俺が使えるなかでも、自慢の魔法の一つだ。


 俺は前へ踏み出す。相打ち覚悟で間合いに入って、即座に剣を振り下ろした。


 対して、バムトは素手だった。しかし彼は剣を防ごうともしない。代わりに彼は腕を振り上げて、こちらを殴ろうとしていた。


 剣を彼の首に向かって振る。彼は信じられないほど無防備だった。剣の刃が彼の首をとらえた。しかし首に剣が当たったときの感触は、まるで鉄を叩いたかのようだった。そして、剣のほうが折れた。


「は? がっ!」


 彼の拳が顔に当たる。顔全体がしびれるような衝撃がして、体が吹っ飛ぶ。倉庫の壁にぶつかって、床にずり落ちる。その時には、顔全体を襲うひどい頭痛みたいな痛みを感じていた。


 その傷が、自動ヒールで治る。さっさと起き上がる。しかし彼のほうはといえば、追撃を加えるでもなくゆうゆうとこちらを見下ろしているだけだった。


「どうだ、俺の硬化魔法は? この体は鉄のように硬く、柳のようにしなやかに動く。今のがお前の全力なのだとしたら、勝ち目はゼロだ!」バムトは言った。


「彼のランクは5かもしれないが、強さはまた別だ。バムトはランク7のハンターを殺したこともある。その功績から、彼は二つ名をクト様からちょうだいしている」プロディティオが言う。


「冥途の土産に教えてやるよ、ジョン君よ。俺の持つ称号はバホメット。クト様に認められた強者だけが授かれる名だ。それを俺は持っている」バムトは言った。


 ランク7のハンターを殺した男が相手だなんて、ついてなさすぎる。この場にヴィクターがいれば、全部任せてしまえるのだが。ないものねだりをしてもしかたがない。俺の力でどうにかするしかない。


「おいおいよしてくれよ。お前だって、無敵だっていうわけじゃないだろ? お前にも怖いものがあるから、こんなところでくすぶって悪党やってるんだろうがよ」彼を挑発する。とりあえず彼から冷静さを奪っておくのは悪くない。


「てめえ、どうやらよほど死にたいらしいな」


「あいにくまだ死ねないな」自動ヒールもかけてあるし、死ぬのはまだだいぶ先のことだろう。


 彼が雄牛みたいな勢いで迫ってくる。彼はその大きく太い腕で、俺の頬を殴りつけた。頬に、白熱した何かを当てられたような感覚がして、体が吹っ飛んで、また壁にぶつかった。


 殴られてできた傷が、瞬時に回復する。しかしその直後に、一瞬で距離を詰めてきた彼に、体を足ではらうように蹴り飛ばされる。その一撃で腕の骨と肋骨が折れて、横ざまに吹っ飛ばされる。


 倒れて動けない俺の上に、彼が馬乗りになる。彼は右の拳を俺の顔に振り下ろしてくる。ついで、左の拳を。そして右、左、右と何度も何度も繰り返し殴ってきた。


「さっきの威勢はどうしたよ、このウスラボケが! 口だけか? 口だけなのか、てめえはよお! どんなに威勢のいいこと言ったってな、力が伴ってなきゃなんの意味もねえんだよ! 力があって初めて、言葉に意味が出てくるんだ! わかったらおとなしく死ね!」


「やめて! もうやめて!」エリシアの叫ぶ声が、遠くから聞こえているみたいに聞こえる。大丈夫、と言ってやりたいが殴られている最中なので口をきけない。


 やがて、彼の殴る手が止まる。


「おい、どうだ? 威勢のいいこと言ったわりに負けてるじゃねえか。だせえやつだな。おい、なんとか言ってみろ」


 顔の傷が治っていく。しかし痛みはひかない。神経に残った痛みは幻の痛みとなって、俺の体をさいなむ。


「俺は・・・・・・まだ負けてない」なんとかその言葉を絞り出す。


「は?」


「俺はまだ負けてない! お前はまだ、俺を殺せていないじゃないか! いいか、俺たちはいつまでだって戦い続ける! 勝つまで戦い続けるという決意をもって、お前に立ち向かい続ける! わかったか、クソ野郎!」


 一瞬、あたりが静まり返る。少しして、静寂の中に足音が響く。そして俺は目にした、ヴィクターの姿を。


「ようやく来たか」


 俺は街の中をあらゆるものをぶち壊しながら、かつぶっ飛ばしながらここへやってきた。俺の通って来たあとはさながら、台風の通ったあとみたいにくっきりと目に見えたことだろう。それをたどっていけば、時間はかかってもいつかはここへたどり着くと信じていた。


 頼むぞ、ヴィクター。ランク7ダンジョンで鍛えたその実力を見せてくれ。


 バムトは俺を無視して立ち上がって、ヴィクターのほうを向く。


「誰だ、お前?」


「バムトよせ、かまうな。そいつはやつらの仲間だ。そいつが来たってことは他のやつらも来てるかもしれない」プロディティオは言う。


「仲間がいるのか?」バムトはヴィクターに尋ねた。


 しかしヴィクターは返事をしない。


「バムト、逃げるぞ!」


「うるせえよ! こいつを始末してから逃げりゃいいだろうが!」バムトはヴィクターへ襲い掛かった。


 気をつけろ、と言いたかった。彼の体は鉄のように硬くて攻撃を受け付けない、と伝えたかった。しかしそれを言う間もなかった。


 彼はバムトに向かって腕を払うような動作をした。その時に、黒い何かが高速で動くのも見た気がした。


 バムトの動きが止まった。直後、彼の体から血が噴き出した。


 ヴィクターの手には、いつの間にか剣が握られていた。刃も柄も、すべてが真っ黒の不思議な剣だ。ロングソード並みに長いそれを、どこから取り出したのかわからない。彼は武器らしきものを一切、持っていなかったはずだ。


 斬られたバムトはよろめいたが、倒れはしなかった。彼は咆哮をあげて、拳を振る。


 だがヴィクターは身を逸らせてあっさりと攻撃を避ける。そして疾風のような素早さで、襲い掛かってこようとするバムトに回し蹴りをくらわせた。バムトが吹っ飛んでいって、壁に激突した。それきり、彼は動かなくなった。


 バムトを倒したヴィクターが、エリシアのほうへ向かって歩いていく。


「う、動くな! エリシアがどうなってもいいのか?」プロディティオが、エリシアの首筋にナイフをつきつけていた。そして自分は彼女を盾にするみたいに、後ろに隠れていた。


 俺は立ち上がりながら、言う。


「大丈夫だ。エリシアさんがどんな傷をつけられたとしても、俺が絶対治す」


「いいわよ、ヴィクター。こいつを斬って」エリシアも、覚悟を決めたように言う。


「な、狂ってる、お前らイカれてやがる! おい、来るなバカ! 止まれ!」


 ヴィクターの姿が一瞬、消えたように見える。それほどに彼の動きは早すぎた。それでもかろうじて、彼の動きが見えた。


 その時に起こったことはこうだった。彼は瞬時にプロディティオとの間合いを詰めた。そして間合いを詰めている最中に剣がぐにゃりと変形して、一瞬で剣は細長いレイピアへと形を変えた。細い一点を狙えるような形に変わった剣を、彼はプロディティオの首へと突き刺したのだ。


 彼が剣を引く抜く。プロディティオはナイフを落として、床に倒れ込んだ。


 ヴィクターの剣が再びぐにゃりと変形して、意志を持った生き物みたいに彼の服の中へと引っ込んでいった。


 ここまでお読みいただけて、ありがとうございます! うまく書けたか自信はありませんが、少しでも楽しんでいただけたのだとしたら、幸いです。


 ブックマーク、高評価のほうを戴けると励みになります。少しでもおもしろいと思っていただけたのでしたら、ぜひよろしくおねがいします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ