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コミュ障ハンター編5

 エリシアが目を覚ました場所は、倉庫のような広い空間だった。そこにはプロディティオと、そしてバムトがいた。


「プロディティオ、これはどういうことなの? なぜ私は縛られているの?」


「あなたはやりすぎたんですよ、エリシアさん。そのせいでクト様の逆鱗に触れてしまった。おとなしく、ケーキの上に載ってるおめでたい砂糖菓子人形みたいに、お飾りギルドマスターとしてのんびりしていればよかったのに。そうすれば少なくとも、生きながらえることはできたはずだ」プロティティオは言った。


「よくわからないけれど、そこにいるバムトも含めて、あなたたちが味方ではないってことだけはよくわかったわ」


 彼女は魔法で二人を凍らせようとした。しかしできなかった。練ろうとした魔力が、何かに邪魔されたように霧散してしまったからだ。


「無駄ですよ。魔法阻害の首輪をつけてありますから、魔法は使えません」プロディティオは言った。


 エリシアは舌打ちした。


「何が目的なの?」少しでも考える時間を稼ぐために、彼女は会話で引き延ばそうとした。


「俺らの仕事はあなたを捕まえること、それとあなたを捕まえたあとでここにクト様をお呼びすること、それだけです。そこから先、あなたがどうなるかは知りません。もっとも、優雅にお茶会をしてそのまま解放、なんてことはないでしょうがね」プロディティオはべらべらと話す。よほど誰もここに来ないということに自信があるのか、焦る様子がまるでない。


 彼女はクトの名を知っていた。ほかならぬ父の仇である。父の暗殺の裏にその男がいると知って、ずっと追ってきたのだ。


 いずれこのようなことが起きるとはわかっていたが、まさか身内に裏切り者がいるとは。それも、父の代からギルドのメンバーだった彼が。


 そこではたと気づく。裏切り者の彼はいつから裏切り者だったのか。エリシアがギルドマスターになるよりも前から、そうだったのではないか。


「プロディティオ、もしかしてあなたが父を?」


「俺は手を下していません。クト様に頼まれたことをやっただけです」


「やはり父を裏切っていたのね。父にあれだけよくしてもらったにもかかわらず、そのお返しに命を奪うなんて。この、人殺し! いいえ、人殺しなんて言葉さえ生ぬるい、お前は人の生き血を吸って生きながらえるヒルよりもおぞましい、最低最悪の生き物よ!」


 プロディティオははあ、とため息をつく。


「エリシアさん、クト様が来るまでは手出しするなと命令されているから俺は何もしないんですぜ。そうでなくても、せっかくのきれいなお顔や体を汚してはもったいないですからね。きれいに残すことができれば、あなたの死体にだって使い道はあるんですから」彼はエリシアのことを舐めるような目で見る。


 その目を見たエリシアの背中に、ぞっとするような悪寒が走った。


 彼女はここからなんとか脱出する方法はないか、と考えを巡らせた。しかし脱出は無理そうだった。魔法は使えない。そのうえ、誰もここにエリシアがいるということも知らないはずだ。もしそうなら、とっくに助けが来ているはずだ。


 エリシアの心に、黒い水が染みわたるみたいに恐怖が染みこんでくる。いやに寒いような気がして、彼女は身をぶるっと震わせた。


 その時。大きな爆発音にも似た音が聞こえてきた。エリシアは最初、その目で見たできごとを信じられなかった。


 ここに来るはずのないジョンが、ドアをぶち破ってものすごい勢いで倉庫の中に入ってきた。足には見慣れない白いブーツを履いている。


 助けに来てくれたのか。しかし、なぜ一人で?


 〇


 わけがわからなかった。俺はただ、エリシアのところへ来たかっただけだったのに。


 着いたのは人気のない地域にある倉庫の中で、そこにはエリシアが縄で拘束されたうえに魔法阻害の首輪をつけられた状態で捕まっていた。しかもなぜか、プロディティオとバムトがいる。


「二人はクトの手下よ! もうすぐクトがここに来る!」


 エリシアが叫ぶ。


 クト。今、エルトリア国家を騒がす大悪党のボスだ。国で起こるすべての悪事の黒幕だと言われていて、まるで蜘蛛の巣のように張り巡らせたネットワークで、たくみに悪党たちを操っているという。


 改めて、彼ら二人を見る。バムトはともかく、まさかプロディティオまでもがクトの手下だとは。


「お前、なぜここがわかった?」プロディティオが尋ねる。


 向こうは何か勘違いしているようだが、俺はただブーツに連れられてここに来ただけだ。


 それよりも、どうすればいいのか。戦って勝てる気がしない。プロディティオは事務員だからともかく、バムトはレベル5のハンターだ。


 ここから逃げ出して助けを呼びにいくべきだろうか。このブーツを使えば、すぐに集会所へ帰れる。そうすれば仲間を引き連れてここへ戻ってこられる。


 いいや、だめだ。そんなことをしたら、二人はエリシアを連れてどこかへ逃げるにきまっている。彼女を殺して二人だけで逃げ出すことも考えられる。


 戦うしかない。

 ここまでお読みいただいて、ありがとうございます! 次の話で、コミュ障ハンター編で一番書きたかったところが出てくるので、読んでもらえるととってもうれしいです。


 それとブックマーク、高評価をいただけると執筆の励みになります。少しでもおもしろいと思ってくれた方はぜひ、そちらのほうをよろしくおねがいします!

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