コミュ障ハンター編2
「受けてくれるのね、ありがとう。それなら仲良くなるついでに、二人にやってもらいたい仕事があるの」
「その仕事は、50万メルシュとはまた別で報酬が出るんですよね?」
「ええ。バムト・デグレチャコというハンターがいるんだけれど、そいつにハンター除名と国外追放の処分が下ることが決まったの。罪状は複数人のハンターへ対する暴行とハンターの殺害。あなたたちにはそいつを捕まえて、ここに連れてきてほしいの。これがバムトのハンター登録証の写し」
エリシアは一枚の紙を引き出しから取り出すと、俺に差し出した。そこには彼の個人情報と、顔が載っている。
「ランク5って、俺より高いんですけど」ちなみに俺のランクは3だ。
「ヴィクターがいれば大丈夫でしょ。なんていったって、ランク7のダンジョンで三年間暮らし続けたくらいなんだから。ていうか、あなただってその気になればランク5のダンジョンくらい行けるはずでしょ。いつまで3でくすぶってるのよ」
俺は平和主義なのだ。危険は冒さない、身の丈に合わないことはしない。そうやって今まで生き残ってきたのだ。
「いやいや、無理ですって。ランク5のハンターなんて」一対一では絶対にやりあいたくない。一方的に殴られて、返り討ちにあいそうだ。
「とにかく行ってきて。ノーって言ったら、仕事減らすわよ」
いらいらしてきたのか、めちゃくちゃなことを言い始めた。まあいい。失敗したとしても、頼んだエリシアのせいだということにしよう。
「わかりましたよ、行ってきますって」
そうして俺はヴィクターと部屋を出た。
集会所を出て、近所の酒場へ行く。犯罪者でも誰でもハンターは酒場に行くものだ。ここにならバムトのことを知っている人もいるかもしれない。
「すみません、この顔に見覚えはありませんか?」
俺は、店で給仕をしていた女性を捕まえて、尋ねる。
「こいつのことなら知ってるよ。バムトだろ。なんかやったの?」女性は尋ねる。
「暴行と殺人です。それでハンターを除名されて国外追放処分が決まったんですよ」
「へえー。ま、いつかはそうなると思っていたけどね」
「むしろようやくか、ってかんじだけどな」そばで飲んでいた男が話に入ってくる。
「ようやくか、っていうのはどういうことですか?」男に尋ねる。
「あいつ、しょっちゅう喧嘩ばかりしてたからな。それも新人ハンターとか弱そうなやつにばかり絡んでいって、ぼこぼこにしてあげくに勉強代だとか言って金品を巻き上げるんだ。裏の仕事にも手を出していたみたいだし、絶対に一人は殺してるな、ありゃ」
とんでもない悪党だ。今からそんなやつを捕まえにいくのか。あいつと戦う時は絶対に手を出さずに、全部ヴィクターに任せよう。
「ねえ、ところでお兄さん」
女性がそう言ってきたので俺のことかと思ったが、そうではなかった。彼女はヴィクターに目を向けていた。
「あたし今日は夕方には仕事あがるんだけど、お兄さんは夜空いてる?」
彼女の問いかけに対して、ヴィクターは返事をしない。見ると、顔が蒼ざめていて、かすかに体が震えている。まさか、女相手に怯えているのか?
「ねえ、お兄さんさえよければ今日、私が気に入ってるお店に一緒に行ってみない? ねえ、いいでしょ?」そう言いながら、彼女はさりげなくヴィクターの手に触れようとする。
その瞬間、彼の姿が消えた。ぶわっと一陣の風が吹く。あたりを見回すが、酒場の中に彼の姿はどこにもない。
「え?」まさか、逃げたのか?
「あれ、どこいったの? え、なんで?」彼女は不思議そうな顔をしている。
本当のことを話したら逆ギレされるのは目に見えている。適当にお茶を濁すのが一番だろう。
「あー、トイレを我慢してましたからね。我慢の限界だったのかも」
「トイレならあそこにあるのに」彼女は店の奥にあるドアを指さす。そこにはちゃんと「トイレ」と書いてある。
「焦ってて見落としたんでしょうね。ところで、バムトがどこに住んでいるかとか、わかりますか? それか最近よく出入りしている場所でもいいんですが」
「ごめん、それは知らない」
「いや、知らねえな。あいつとは極力関わらないようにしているもんだから」
二人とも、彼の居所は知らないみたいだった。
「そうですか。それじゃ、俺はもう行きますね。彼を探さないと。ありがとうございました」
俺は彼女にチップを渡すと、立ち去った。
店を出ると、入口のすぐ横にヴィクターが立っていた。店のすぐ外で待っていたらしい。
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