エヴァとマリンガ警察署 2
院長室で息子アドリアーノからの電話を受けた アドリアーノの父
【シェストン·フェべレイラ·ダ·シルバ】は、何かの悪戯なのではないだろうか?
しかし間違いなくアドリアーノの声だった あの聡明な息子が兄が死んだなどと悪質な冗談を
言う筈もない。。。
どこか現実感の伴わない、半信半疑な状態で椅子から立ち上がり
義父の居る理事長室へと向かう 内線で用件を伝えてもいいのだが、受話器越しに上手く話せる気がしないのと 歩いている間にアドリアーノの話を理解する必要があると思ったのだ
「父さん。。。今マリンガ警察署に居ます 父さん落ち着いて聞いて下さい 兄さんが。。。
エルトン兄さんが、何かの事件に巻き込まれたそうで。。。亡くなりました
これから警察の人達と自宅へ向かいます 詳しい話しをしてくれるそうですので
父さんとお祖父さんも家に帰っていてくれますか」
アドリアーノに自分がなんと返事をしたのかよく覚えていないのだ
“何を馬鹿な話をしているのだ!!” そう怒鳴ったような気もする
“おおっ神よ(アマデウス)! それは間違いないのか!?” 神に祈ったような気もする
しかし実際には絶句したまま、“ああ。。。わかった”とだけ声を絞り出し 電話は切れていた
電話の内容を理解するまでも無く 息子のエルトンが死亡し義父とともに家に帰らねばならない
理事長室のドアノブに手を掛ける どう話をすればいいのだ? 自分に何か落ち度があったのか?
子供の頃の息子を思い出し、あれほど可愛かったエルトンが。。。 僕と妻の宝物が。。。
また 義父にお前の教育が悪いと罵られるのだろうか? 僕はここで何をしているのだ?
さまざまな思考が渦巻き パニック状態になりながらも家に帰らなくてはとドアノブを捻る
一息にドアを開け義父の顔を見るとわずかに保っていた正気の糸が”ぷつっ”と切れ
崩れ落ちるように床に膝をつき
「エルトンが。。。死んだ。。。エルトンが死んだ。。。そうです。。。エルトンが死んだそうです。。。」
理事長室の床にひざまずき、壊れた人形のようにそう繰り返す私に意外にも祖父は優しく
肩に手を回し、深呼吸をするようにと言い 背中を撫でてくれた
言われるまま数回の深呼吸の後に、ようやく落ち着いた私は両手で義父の手を取り用件を告げる
「エルトンが死んだそうです 警察が家に来るので帰ってほしいとアドリアーノから連絡がありました」
「おおっ神よ。。。」ひざまずき胸の前で十字を切る 義父
「エヴァ一緒にアドリアーノの家まで行くのか?」
アドリアーノのアウディをブルーノが運転し、鑑識などが乗った警察車両が追走している
エヴァはアウディの後部座席で小刻みに震えていたアドリアーノの手を握り、まるで母親のように
付き添っていた
「うん Bizも置いてあるしね。。。アドリアーノも心配だし」
「エヴァ先生 ありがとう もう大丈夫だから。。。」
血の気の引いていた唇にも赤みが戻ってきている
「アドリアーノよかったらお兄さんの事を教えてくれるかい? 犯人逮捕の参考になるかもしれないからね 君はお兄さんのエルトンとは仲が良かったのかい?」
「はい エルトンは僕にはとても優しかったです。。。。。。。。ううっ。。。」
言葉に詰まる アドリアーノ
「アドリアーノ 無理しなくてもいいのよ お兄ちゃんも可哀想なことを言わせないで!」
「すまないな しかし殺人事件の初動捜査は最初の72時間がもっとも重要なんだ
もし目撃者がいた場合の記憶の鮮度や、もう一度 現場を洗い直すにしても時間が勝負だからね
すでに48時間以上が経過している つらいのは解るが、君に優しかったエルトンを殺した犯人を捕まえたくはないか?」
「もちろん 捕まえたいです なんでも協力します! お願いします犯人を捕まえて下さい!」
それから滔々と語り始める アドリアーノ
エルトンは自分よりも3歳上で、この街に2つある私大の1つユニ·セズマーの医学部に通っていた
しかし2年続けて留年しており、今学期も成績が振るわず 父や祖父とは顔を合わせるたびに
口論が絶えず 家に居づらかったのか、最近では彼女の所や友人の所に外泊する事が多くなり
それでも母親には連絡しており居所は把握できていた
父や祖父の強い希望で医学部に進学を決めたのだが、本当はエルトンは医者ではなく料理人になりたかったとエルトンの好きなテレビ番組【スーパーシェフ】を一緒に見ているとアドリアーノだけには、そう語っていた
彼女の名前はアナパオラ、同じ高校の後輩で兄と同じユニ·セズマーの薬学部に通っている
医学部に一緒に行きたかったが、高額な授業料を払う事が出来ずに断念した
それでも将来 兄の役に立てるかもと薬学部に進学していた アナパオラに兄の事を伝えるのがつらいな。。。
黙ってアドリアーノの話に耳を傾けているとJDアメリカの彼の家の門が見えてきた
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