エヴァとアドリアーノ 2
脳内に小気味の良い音が響くとエヴァへと戻る 握っていたアクセルをさらに開き
アドリアーノの乗る アウディに並ぶと親指を立てウィンクをしてみる
この行動に特に意味は無いのだが 少し不安気なアドリアーノを元気づけようという
エヴァの挨拶なのだが。。。
エヴァ2しか知らないアドリアーノは、元気が出るというより
驚きに一瞬固まってしまっていた。。。
「あのいつも物静かなエヴァ先生が。。。? ハンドルを握ると豹変するタイプなのか?」
州道を左折し、閑静な住宅街へと入り しばらく走ると一際 白く高い壁に囲まれた
住宅の前で停車し コントローラを操作すると 跳ね上げ式の鉄門がゆっくりと開き
アドリアーノが慣れないハンドル捌きで3台ほどが停められる駐車スペースの
空いている右端のスペースに何度か切り返しながら入庫する
門の外で何故か腕組みをしている エヴァの元へ走り寄り
「そう言えば大学の外でエヴァ先生に会うのは初めてですね」
「アドリアーノ。。。あなた私より1学年下ということは18歳よね?」
「ええ そうですよ どうしたんですか? いつもと様子が違いますが。。。」
「と言うことは、車の免許を取って いきなりアウディA3!?」
「そうなんです あの大学に入れたら 車を買ってくれると約束していたものですから
先週ようやく免許が取れたので 実は今日が初ドライブだったんです エヴァ先生 後で横に乗って下さいね!」
実に無邪気に笑う アドリアーノ
「大きなプールに高級車、高級住宅街に白亜の豪邸。。。お父さんの仕事は何だっけ?」
「えっ? 医者ですが メトロポリタンの院長をしています だから僕も医学部に。。。
ですから先生に法医学を家庭教師してもらっているんじゃないですか」
医療、教育は基本無料のブラジルだが、どちらも受けられるレベルは低い
高度な医療、高度な教育を受けようと思うと 私立の診療所や病院 私立の学校に通わなければならず
高度な医療を求める富裕層が最初に思い浮かべる病院、人口60万人のこの地域でもっとも大きな規模の総合私立病院がメトロポリタンである
「ええっ!? メトロポリタンの!? 凄いんだね~ アドリアーノ君 私たち友達だよね!」
「もちろんです いつでも友達以上になる覚悟もあります!!」
アドリアーノの返事もろくに聞かず 玄関へとスタスタと歩き始める エヴァ
「なんだか、いつもと様子が違うんだよな〜 いつもより話しやすいけど。。。」
エヴァの後ろ姿を眺めながら などと独り語ちる アドリアーノ
「兄貴からのお下がりのBizに築30年の木造住宅。。。国からの年金と。。。お祖母ちゃんの日本からの遺族年金が頼り。。。えらい違いだよね〜」
ブツブツと独り言をこぼしながら 人の家の玄関ノブに手を掛ける エヴァ
まるで我が家のように勝手に重厚な玄関ドアを開けると、エプロン姿の40代の女性が出迎える
「あっ お母様 初めましてエヴェリンと申します」
とっさによそ行きの笑顔で挨拶をする エヴァ
「エヴァ先生 彼女は家政婦のタリータです」
「奥様は居間にいらっしゃいますよ」
「ありがとうタリータ ではエヴァ先生 母に紹介しますね」
磨き込まれた廊下をスニーカーの汚れを気にしながら アドリアーノの後について歩く
頑張れば10人くらいが座れそうな 白く長いソファーに腰掛けている 品の良い女性
白のビスチードを上品に着こなし 細い金縁のメガネに指をかけて、こちらを見る
「母さん 彼女が法医学の家庭教師をしてくれている エヴァ先生です」
「初めましてエヴェリン島袋といいます エヴァと呼んで下さい」
「あら 初めまして いつも息子から聞いています 本当に可愛いお嬢さんだこと
それに真面目でとても優秀だとか」
端正な顔立ちから実に人懐っこい笑顔を浮かべる
「そうなんだよ先生は法学部でただ一人の女性の特待生だからね」
「あら そんな方に教えてもらえるのでしたら安心ですね」
「いえ。。。そんな私が頑張っているわけでは。。。」
語尾がゴニョゴニョと小さくなる エヴァ
「じゃあ先生 兄貴の写真を取ってくるので、ちょっと待ってて下さいね」
「あら エルトンの写真なんかどうするのかしら?」
「エヴァ先生のお兄さんは警察官だから もしどこかで見かけたら教えてくれると言うので」
「そうなんですか もう4日も帰ってこないので心配していたんです じゃあお茶でも淹れましょうね コーヒーのほうがいいかしら?」
「じゃあお茶を頂きます」
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