エヴァと黒猫
今年最後の投稿です 皆さん良いお年をお迎え下さい
玄関を開けるとリビングルームとなり、床も壁も黒で統一され 赤い遮光カーテンが掛けられ
3人掛けのソファーが2脚置かれており、おそらく待合所となっているのだろう
その部屋から床まで届きそうな赤と黒のビーズカーテンを掻き分け 次の部屋へと入る
この部屋も黒いタイルが敷き詰められているが、壁も窓もすべてが黒地の布が張り巡らされ
赤い模様がまるで古代の壁画のように描かれている
鍵、太鼓、蛇……それぞれを道のような物で区切られ、二股に分かれたり 十字路があったり
また1つに合流したりと目で追っているだけで、ここがわずか壁1枚隔てた外界とは隔絶した世界なのだと脳が認識し始める
天井から吊るされたランタンに火が灯り 赤い布と黒い布が交互に掛けられた部屋の中央にある
祭壇に置かれた数本のロウソクが人の気配に揺れていた
「初めて見る人には、不気味よね?」
「この赤と黒の配色には、何か意味があるのですか? 鍵や蛇の模様とか祭壇に置かれた唐辛子やピンガ(サトウキビのお酒)とか……?」
ブルーノが祭壇に置かれたタバコを手に取る
「それはね、私のオリシャ…オリシャというのは精霊の事なんだけど、エシュ(Exu)といってね赤と黒が大好きなの、ここにある供物もエシュの好物 エシュの居心地のいい空間を作っていったらこうなってしまったわけね 焚いているお香もエシュの好みよ」
エリカが祭壇のパンを指さすと、袖口についた鈴がチリンッと音を鳴らす
「不勉強ですいません オリシャというのは、何種もいるという事ですか? エシュというのは
どういう精霊なのですか?」
ブルーノの頭にスエ叔母さんの顔が浮かんでいた
「本当にカンドンブレの事を勉強しに来たのね」
アリーニが、可笑しそうに笑う
「まぁいいわ 本当に興味があるようだし 貴方たち兄妹の縁者が、私のオリシャと縁があるみたいだしね」
「そんな事まで、解るんですか?」
その質問に意味深な微笑みで応える エリカ
「そうね〜 万物に精霊は宿っているからオリシャも無数にいると言えるわね きっと私の知らないオリシャも居るわ そして私のオリシャのエシュと言うのは、人間に道を示す精霊よ
とてもいたずらが好きで気紛れなの、供物を間違えたり約束を違えるといたずらをされたりするから注意が必要よ 基本的には人間の味方だけどね」
エリカの紡ぐ言葉が、この部屋に渦巻くお香の薫りと相まって不思議な呪文を聞いているような
何とも言えない心持ちになり始める ブルーノ
「ついでだから、ブードゥーとの違いを私が教えてあげるわ」
許可を求めるようにエリカをチラッと伺う アリーニ
「まずブードゥーにはオリシャはいないの、ロアという霊的存在 人と神の中間に居る存在
それを使って死者と交信したり、呪術、予言、治療を行うの 発祥は西アフリカのフォンク族
やエウェ族だと言われているけど そこから伝播したハイチが有名よね ドラマや映画で有名になり過ぎてカンドンブレもブードゥーも一緒にされるけど カンドンブレはオリシャが呪い師に憑依してメッセージを伝えるというのが大きな違いね 発祥も同じ西アフリカだけどヨルバ族という部族なの 出来ることはオリシャによって違うけど人の生活により根ざしたのがカンドンブレだと言えるわ ちなみに私のオリシャはシャンゴ(Xango)と言って力や正義の精霊よ」
どう? という顔でエリカを見る アリーニ
「ただ どちらにも黒魔術師と言うのは存在するわ」
エリカが汚い言葉を口にした というような表情を浮かべる
「それは、人を呪ったり 貶める事が出来るという事ですか?」
「そうね 善悪の区別はオリシャには無いの オリシャやロアの力をどう使うのかは、結局は人間次第ということよね」
「ねぇ 見た? ここに来てから5匹目の黒猫だよ!」
足元に纏わりつく黒猫をそっと抱き上げる エヴァ
「あらっ うちの猫たちが初対面の人に懐くのを初めて見たわ」
「確かにそうですね…私には今でも近づいてくれません……」
アリーニが、エヴァの抱いている黒猫に手を伸ばすが“シャッーー”と威嚇されてしまう
「あの 明日も遊びに来てもいいですか?」
その後 ブルーノがひと通り聴くべきことを聞き ンザンガ·シノを後にする
「まぁ十中八九 事件とは無関係だな」
車に向かいながら、ブルーノが独り言のように呟く
「アドリアーノのお兄さんは、こんな所に何をしに来ていたのかしら?」
「うん? この地区は、ヤクの売人がたくさんいるからな…そういう事だろうな」
昼間だというのに花火の音が2発上がる 新しい商品が入荷したという売人からの合図である
思わず顔をしかめる 2人
フースカの扉に手を掛けたブルーノが“アッ”という顔でエヴァを見る
「2人共……僕がいる事を忘れていましたね……」
「「ごめん クレイトン」」
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