ブルーノとエヴァ2
「誰かの幸せは、誰かの不幸かもしれないなんて言ってたけどスエ叔母さんが幸せになる事で
誰も不幸になんかなってないよね? セルザも幸せそうだしね」
ガレージを出て車に向かうブルーノの背に語り掛ける エヴァ
「ああ そう思うよ どうだ? もう遅いしたまには乗っていくか?」
「明日も授業があるから、Bizで帰るよ」
「気を付けて運転しろよ」
分譲予定地が広がる見通しの良い区画を抜け コロンボ通りに出る
制限速度の80kmを超えないようにアクセルを調整しながら走る エヴァのBizの後ろを
ブルーノの青いフースカが、パッシングをし爆音を響かせながらBizの真後ろに迫ってくる
「ちょっと! 何考えてるのよ!?」
おもわず反射的にアクセルを開けてしまう 速度計が80kmを振り切る
「ああっ!?」“カチッ”とスイッチが変わる音が脳内に響く
今日の午後にアドリアーノの自宅に向かう際にエヴァと切り替わってからの約6時間の情報が
一気にエヴァ2の頭へと流れ込んでくる
ジャルジン·アメリカの閑静な家並み ファべレイラ家の白亜の邸宅
家政婦のタリータとの会話 アドリアーノの母親、ジェシカとの会話
アドリアーノのアウディのインパネ マリンガ警察署ですれ違った人々
資料室の壁に張られた直近の事件の資料と発売されたばかりのウィンドウズ98のソフト
机上に雑多に積み上げられた書類や写真 ブルーノから兄の死を告げられたアドリアーノの顔
ルーカスから貰ったパソキーニャ アドリアーノのアウディを運転するブルーノ
ファべレイラ家のエントランスで見た名画の贋作 ゴルフというスポーツのクラブセット
アドリアーノの母親ジェシカの慟哭が津波のように脳内に押し寄せ おもわず顔をしかめる
アドリアーノの祖父ジョージの怒鳴り声 アドリアーノとの会話
ファべレイラ家のプールに浮かぶ虫たちの死骸 スエ叔母さんの家に向かうコロンボの通り
セルザと見ていたローカルニュースを読み上げるキャスターの頭部で光る汗
ブルーノの青いフースカ スエ叔母さんの秘密の話 セルザのガレージで見たSP2
エヴァが見聞きし記憶という名の部屋に無造作に投げ捨てられた6時間の情報が、すべて
エヴァ2が整理し記憶の引き出しに収められる
エヴァがまったく気にも留めずに聞き流していた会話
なんとなくパラパラっと捲っただけの雑誌や教科書
通りを歩いている時に目に入る、看板や広告の内容 すれ違う人々の顔や服装
点けっぱなしのテレビやラジオから流れてくるあらゆる情報や音楽
エヴァが物心ついてから得た情報、これらの全てをエヴァ2は瞬時に取り出す事が出来る
その結果が今の大学での特待生であるし 数人の家庭教師のアルバイトを受け持つことにより
経済的にも恩恵を受けていた
「よし! 80kmを超えたな! いい加減にエヴァ2で家に帰ってもらわないと家の中が、足の踏み場もないからな」
先にガレージにBizを停めたエヴァ2が、騒音に気を使いながらゆっくりとガレージに入ってくるブルーノのフースカを待っている
フースカのヘッドライトに腕を組み立ち塞がるエヴァ2が浮かぶ
「お兄様 先ほどの煽り運転は、褒められた運転マナーとは言えませんよ 仮にも警察官なのですから自重してして下さい」
「はい ごめんなさい でも安全も考慮したつもりだけど……」
「制限速度80kmの州道をお兄様は、最高で85kmで走行し私との車間距離も1mまで接近していました 速度違反に安全運転義務違反ですね」
「悪かったお詫びにピッザを奢るよ」
お前には敵わないと両手を挙げて降参する ブルーノ
「コーラ2リットルとチョコレートと苺のピッザもお願いします」
ピッザが届くまでの間 ブルーノの目論見通り、みるみるうちにソファーに積まれていた衣類がクローゼットに収まり、脱ぎ散らかしていた靴下や下着が洗濯機の中で回っている
居間の掃除が終わると自分の部屋へと入り、黒いゴミ袋を抱えゴミ集積所へと二往復したあと
[プップップー]ピッザが届いたようで表の通りから、バイクのクラクションが聞こえる
『今日は、もっと遅くてもいいのに……こういう時に限って早いんだよな……』
などと独り言を呟きながら ピッザを受け取り
「ピッザが届いたぞ〜」 ノックをしながら自室で掃除機をかけているエヴァ2に声を掛ける
そして隣の自分の部屋のドアを開け放して エヴァ2に兄の部屋の惨状を見えるようにしておく
案の定、ブルーノの部屋を横目で見たあと一歩足を踏み入れる エヴァ2
居間でピッザを広げていると、ブルーノの部屋に居るエヴァ2から声が掛けられる
「ここにある写真を見ても良いですか?」
「ああ いいけどピッザが冷たくなるぞ〜」
『写真だけじゃなく 俺の部屋の惨状もよく見てくれよ 写真? 署から誤って持ち帰っちまったやつか? まぁ良いか……』
ソファーに座ると、どこか上の空な様子だが、もくもくとピッザを口に運ぶ エヴァ2
「しかしよく食べるな……」 食べっぷりに見惚れ、おもわず本音が漏れる ブルーノ
「はい この私で居ると消費するカロリーが倍増するものですから」
「そうだろうな、ほらチョコレートと苺のピッザも食べてくれ」
「あの お兄様 私…犯人が解りました エヴァの目がすべてを映していました」
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