ブルーノとフースカ改
マリアーバの遺体発見現場周辺の聞き込みと言っても、付近に住宅はほとんど見当たらず
シャカラ(別荘)の管理人などに聞き込みをして回るが、なんの収穫もなく勤務を終える
「3人で回って手掛かりは無しか、被害者の交友関係から洗った方が良さそうだな」
司法警察の制服である、黒い長袖のシャツに黒のカーゴパンツを着込んだ
ブルーノより2年先輩のアントニーが退屈そうに車のボンネットに腰掛けている
「そうですね 鑑識のウーゴが被害者の電話帳を入手していますので、手分けして当たることになると思います じゃあ俺は、寄るところがあるので直帰させてもらいます お疲れ様でした」
後輩のクレイトンにも軽く手を振り車に向かう
ファべレイラ邸から署に戻った際にマリアーバでの聞き込みの後、そのまま叔母の家に向かうために駐車場に止めていた愛車”フースカ”を駆り現場に入っていた
“フースカ”とはブラジルでもっとも登録の多い車、世界一の大衆車フォルクス·ワーゲン·カーファ
“ビートル”という愛称でお馴染みの愛嬌のある丸っこい車をブラジルでは“フースカ”という愛称で呼んでいた
この76年式の青いフースカは、8年前に殉職した父ネルソンの遺品でブルーノの宝物である
父が生前、どこからか入手してきた廃車のスバル·インプレッサWRXの水平対向エンジン
名機EJ20を移植し、高性能キャブレター、エアークリーナー、エキゾーストパイプやマフラー
サスペンションやディスクブレーキまでスポーツ仕様に交換してあったのだ
内装も外観もノーマルだった為に、それまでは気が付かなかったのだが7年前に免許を取得して
ほぼ1年間放置されていたフースカを整備に出した工場で、このフースカがどれほどの価値があるのかを知る事になる おそるおそるハンドルを握り整備工場へと乗り入れると
ボンネットを開けた年配の整備士の目の色が変わる
売ってくれとしつこく頼み込む整備士に言われたのが、この車がどれほどバランスの取れた素晴らしいチューニングが施されているか 免許を取得したばかりの初心者にはとても扱いきれないなどとクドクドと説明され、フォルクス·ワーゲン·ゴルの新車が買えるほどの金額を提示されたのだが、それを振り払い バッテリーとオイルだけを交換してフースカを運転して帰った
それからブルーノは、母親に将来整備士になるのか? と疑われるほど暇さえあればフースカを
庭でいじり続け、父の遺志を継いだのか、見た目はほぼノーマルだが、タワーバーやロアアームバーなどボディー剛性の向上とバカ高い高性能タイヤなどに、学生時代のアルバイトの給料のほとんどを注ぎ込んでいった
そしてブルーノが大学を卒業する頃には、草レースでは負け無しのフースカが仕上がっていた
このように愛してやまないフースカだが、たった一つだけ不満があった
その問題とは、このフースカの色が青いという事だった。。。
黄色いフースカを1日に3台見掛けると幸せになれる
赤いフースカを1日に3台見掛けると良い事がある
黒いフースカを1日に3台見掛けると悪いことが起こる
青いフースカを見掛けたら、近くにいる人の肩にグーパンをしても良い
というジンクスがある つまりこの車が通った後には、そこかしこでバシバシッと暴行事件が
発生している訳である それが子供だけでなく大の大人までもが楽しそうに“フースカ·アズール”
と叫びながら、隣の人の肩にグーパンをお見舞いしているのだ
“親父よ なんでよりにもよって青なんだ?”
※フォルクスワーゲン·ゴルとは、ゴルフの廉価版で南米限定モデル 新車価格でゴルフの半分位
当時のブラジルで新車登録の最も多い車※
マリアーバのセントロを抜け、州道376号 通称コロンボ通りをマリンガに向け北上する
いわゆる高速道路だが、マリンガ、サランジ、マリアーバというマリンガ都市圏の中を
移動する場合には、料金場は存在せず無料で行き来することが出来る
綺麗に舗装された3車線の真っ直ぐな道を、開け放たれた窓に左肘を乗せ 煙草に火を点ける
右脚に力を入れるとエンジンにガソリンが送られ、軽やかな唸りのあとメーターが跳ね上がり
固められたサスペンションが道路の継ぎ目をリズムよく拾う
ブルーノ至福の時である
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