なんのアニメを見ていたんだ?
「……いくよ」
「縺イ縺ィ繧翫↓縺励↑縺�〒……?」
「そんな悲しそうな顔されても行かなきゃなの!」
さっきからずっと、アイリスが上着の裾をギュッと握って離してくれない。
けれど今日は月曜日。貴志は仕事に行かなければならないのだ。
「ごめんね、でも本当に行かないといけないんだ。ご飯は昨日買ったパンがたくさんあるからこれを食べてね」
貴志はパンをテーブルに広げて指をさす。
新しいコップも用意しておいたから、これでサイダーを好きなだけ飲んでくれればいい。
「でも一人じゃ暇だよな。じゃあアメマTV付けておくから、好きなチャンネルを見ていてね」
リモコンをアイリスに握らせると、カバンを持つ。
アイリスは悲しそうな顔をしながら貴志とテレビを交互に見て、やがて貴志の服から手を離した。
どうやら納得してくれたようだ。
「それじゃ行ってくるね」
会社のある新宿までは、西武新宿線で10分ちょっとだ。
西武新宿駅につくと、大ガードと呼ばれる鉄道橋をくぐる。
そのまま人の流れに合わせて、西新宿のオフィス街にある会社へ向かった。
ビルに入ってエレベーターを待っていると、眠気が襲ってくる。
昨夜はアイリスの柔らかさが気になりすぎて、ほとんど眠れなかったのだから仕方がないというものだ。
「ふぁー、眠すぎる……」
「どうした、睡眠不足か?」
「や、山岡部長! おはようございますっ!」
後ろから上司に声を掛けられて、貴志は思わず姿勢を正した。
「休みだからといって遊んでばかりいたらダメだぞ。社会人の姿勢というのはだな……」
エレベーターを降りて、席につくまで延々と小言を聞かされた。
朝からやる気を失くすようなことがあって、早速気分が落ちこんでいった。
「ふぅ……とりあえず切りがいいところまで終わったな」
ちらりと時計を見ると、時刻は18時半。
19時に幸花と待ち合わせをしているからぴったりの時間だ。
作業日報を保存して、勤怠管理アプリで退勤を打刻しようとすると山岡部長と目が合った。
以前、『上司より先に帰るのか?』的なことを遠回しにいわれたことがある。
それを思い出して、マウスカーソルが揺れた。
だから普段はダラダラと作業を続けることも多い。
しかし今日はアイリスのために下着を買いに行くのだ。
貴志は唾を飲み込んで、退勤ボタンをクリックした。
「お先に失礼します」
「……おう」
部長はこういう時、いつも何も言わない。ただジロリと睨むだけだ。
きっとハラスメントが叫ばれている世の中だからだろう。
先週までの貴志なら、そんな部長の表情を伺って不安になっていたはず。
なのに、どうしてだろう?今日は何も思わない。
それもこれも、アイリスと出会ったからだろう。
家であの子が待っていてくれると思ったら、ダラダラと無駄な仕事をしてなんかいられない。
「お待たせー」
「おう、久しぶり」
待ち合わせの新宿東口に着いて、しばらく待っていると幸花がやってきた。
さらさらの黒髪なのは変わっていないけど、少し短くしたようで、肩口で切り揃えられている。
オフィスカジュアルであることから、幸花も仕事帰りなのだろう。
「で、急にどうしたのー? 行きたいお店があるんだっけ?」
「うん、ちょっといいづらいんだけどさ」
「え、何?」
「実は女性の下着を売っている店に行きたいんだ」
「……はぁ?」
幸花は貴志に呼び出された理由を聞くと、明らかに機嫌を悪くした。
「なに、新しい彼女へのプレゼントってわけ?」
「いやいや、彼女なんかじゃないよ」
「ふーん、まだってことねー。じゃあその子と一緒に行けばいいじゃない」
「まぁそうなんだけどさ。ちょっと事情があってね……」
「はぁ……まぁいいや。じゃあ行こ」
アイリスとは仕事帰りに新宿で待ち合わせなんてできない。ノーパンだし。
そもそもあまり外に連れていきたくなかった。ノーパンだし。
でもずっと閉じ込めているわけにもいかないか。
ノーパン娘を卒業したら、少しずつ外に連れて行ってみるのもいいかもしれない。
そんなことを考えながら幸花に案内されて下着専門店へと向かう。
「——ねえ、聞いてるの?」
「あぁごめん。ええっとアイリ……じゃなくてその子のカップ数だっけ?」
「そう。それが分からないと選びようがないよ」
「うーん、分からないなぁ」
確かにいわれてみればブラジャーってカップ数が必要なんだっけ。
A65とかC70とかいわれても、男の貴志には全く意味がわからない。
でもアイリスに聞いても分からないだろし、測るのも……ちょっと難しい。
やっぱり連れてくるべきだったのか。
「まあ大まかにSMLサイズで選べるのも一応あるけど」
「まじ? じゃあそういうのにするわ」
「ちなみに、その子と私、どっちが大きいの?」
「え……うーんと」
貴志はちらりと幸花の胸に目をやった。
それからアイリスの姿を頭に思い浮かべる……必要はなかった。
どちらが大きいかは明白だったから。
「その子の方が大きい……かも」
「へー、確認したんだぁ?」
幸花は自分の胸を鷲掴みにして、揉み揉みしながら意地悪な事を聞いてきた。
触っちゃいないけど……まぁ裸は見たな。
「目算だよ、目算!」
「どーだか。はい、到着したよ」
幸花が連れ来てくれたのは 『ジョン&アンナ』という下着専門店だった。
中にはカラフルで、色々な見た目の下着が並んでいる。
ここに一人で来るのは……うん、無理だったな。
貴志は幸花に感謝をしながら店内に足を踏み入れた。
「上下セット?」
「うん、その方がいいな」
「じゃあこの辺のがいいんじゃない?」
「お、良いかも……って紐パンじゃん」
「貴志こういうの好きでしょ」
「嫌い……ではない」
「正直でよろしい。私より大きいってことはLでいいよね? じゃあ入れちゃお」
幸花は貴志の返事も聞かず、カゴに放り込んだ。
こうして一緒に買物をしていると、付き合っていた頃に戻ったみたいだ。
あの頃は仕事でいっぱいいっぱいになっていて、しかも鬱になりかけで。
幸花の事を考えている余裕がなくなって、それで別れを切り出した。
それでいて、こうやって自分の用事で呼び出すのは申し訳なさもある。
「お、ルームウェアも売ってるんだな」
「可愛いのあるじゃん! 新作だってさ」
「じゃあそれも買おうかな。幸花の分も買ってやるよ」
「え、いいの?」
「うん、ほら今日付き合ってくれたお礼にさ」
「それなら遠慮せずに買ってもらおーっと」
こうして買い物を終えた貴志は店を出た。
昨日に続いてたくさん買ってしまった……。
けどアイリスのためだしな、と貴志は自分を納得させることにした。
「今日は急に悪かったな」
「あ、このあとご飯とか食べていかない?」
「ごめん、実は早く帰らないといけなくてさ」
「そ、そっか。そうだよね! じゃあ一人ラーメンでもしよーっと。あはは」
「じゃ、また今度行こうな」
「えっ…………うんっ! じゃあまた連絡してね」
ありがとう、と改めて礼を告げて貴志は幸花と別れた。
そして小走りで駅まで向かう。
今頃アイリスは何をしているだろうか。頭に浮かぶのはそんなことばかりだ。
電車を降りると、少し考えてから駅前の牛丼チェーン店『竹屋』に寄った。
今日はもう遅いので、ここで夕食を買って帰ることにしたのだ。
ハンバーグ定食と大盛りの牛丼を持って家のドアを開けると……どうやらアイリスはアニメを見ていたようだ。
貴志が帰ってきたことに気づいたようで、とててと玄関に走ってきた。
それからなぜか正座をすると、三つ指をついた。
「おか、えりなさい……おにー、ちゃん?」
「アイリス……い、一体なんのアニメを見ていたんだ……?」
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