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防犯意識は大切

 銭湯の女将さんに不穏な事を言われたので、帰宅してすぐにユニットバスの中を調べることにした。

 まずは棚の周りを確認、それからコンセントのカバーを外して中を覗いてみる。

 どちらもいじられた形跡はなかった。

 ネットで検索してみると、最近はシャワーヘッドの中にカメラを仕掛けることすらできるらしい。

 慌てて調べてみると、幸い我が家のシャワーヘッドは無事だった。

 

「とりあえずは大丈夫そうだけど……あとは照明の中も見てみるか」


 電気を消してから照明カバーを外してみるも、やはり何もない。


「考えすぎだったのかな……あとは換気扇とかかな」


 カバーを戻して電気を点けると、今度は換気扇を消した。

 引っ越してきてから一度も掃除したことがないから、開けるのがちょっと怖い。

 浴槽にのぼって、天井にくっついている換気扇に手を伸ばす。

 覚悟を決めてから爪を引っ掛けて、蓋を引っ張ると簡単に外れた。

 

「あれ、意外と綺麗だな」


 変な虫がいないか、と不安になりながら恐る恐る覗いてみる。

 

「これ……は?」


 黒っぽい何かがあったので、指先で掻き出す。

 それは換気扇の根本からコードが繋がっているのか、転がり落ちてぶらりと垂れ下がった。

 手に乗せて間近でよく見ると——背筋がゾクッとした。

 

「カメラ……なのか? 本当に!?」


 女将さんや、アイリスが不穏なことを口にしていた。

 しかし貴志はそれを信じていたわけではない。

 それどころか、そんなことあるわけがないとさえ思っていたくらいだ。

 それでも自分が安心したくて、アイリスに安心してほしくて調べたのだ。

 

「マジ、かよ……うおっ!」


 あまりの驚きに思わず足を滑らせて、貴志は浴槽の淵から落ちてしまった。

 

「いてて……」

「タカシ! へーき?」


 部屋にいたアイリスが音に気付いたのか、駆けつけてきてくれたようだ。

 貴志は逆さまになったような情けない格好で、浴槽の中に転がっていた。

 

「いたい?」

「腰がちょっとね……でも大丈夫だ」


 アイリスに心配させないよう、軽快に立ち上がる。

 しかし、それがいけなかったのか腰に強い痛みが走った。

 

「痛っ……」

「かわいそー、こっちきて?」


 ハの字眉で心配してくれている彼女に手を引かれ、ベッドに寝転がる。

 それからアイリスはごにょごにょと異世界語を唱えはじめた。


「縺九>縺オ縺上□繝シ!」


 そう唱えると同時に、腰の辺りが暖かくなってきた。

 しばらくすると、痛みが引いてくるのを感じる。


「これはすごい。回復魔法も使えるのか」

「いたいのいたいのとんでけーした?」

「うん、したした! ありがとな」

「どういたしましてー!」

「おお、覚えたのか」

「んー、おぼえたっ!」


 回復魔法も使えるなんて、きっと向こうの世界でも良い待遇をされていたんだろうな。

 さて、とりあえずあの機械を外してこよう。

 それから管理会社に連絡をして……逆恨みされないといいが。



「くそっ、出ないな。もう営業時間が終わってんのか」


 さすがに22時を過ぎているから仕方がないかもしれない。

 こういう場合は警察に電話した方がいいのだろうか。判断が難しいな。

 いや、被害が出ていないからまずは管理会社か。明日の昼休みにでも掛けるか。


「しかし、これは何なんだ?」


 親指サイズのそれを手のひらで転がす。

 外し方が分からなかったので、思い切ってコードをハサミで切った。

 だからもう動作はしていないだろうが、それでも気持ちが悪い。

 

「とりあえず……しまっておくか」


 貴志はテレビ台の引き出しの奥の方に黒い機械を押し込んだ。

 


「それじゃ行ってくるけど、鍵を開けちゃダメだよ」

「はーい」


 不安はあったが、貴志は仕事へ行くことにした。

 ちゃんと鍵を掛けておけば直接的な危険はないだろうし。


 とは思っていた貴志だったが、どうにも仕事が手につかない。

 昼休みになると同時に管理会社へ電話を掛けた。


「もしもし。〝みかさマンション〟の空野ですけど」

『はい、どうされましたか?』

「先日、ユニットバスの修繕をお願いしたと思うのですが」

『ええと……ありました。土曜日に完了されていますね。問題がありましたか?』


 土曜日に完了というのは、ちょっとおかしいのではないか。

 初日の作業は延期されて、実際に完了したのは日曜日のはずだ。

 それを伝えると電話で対応してくれている女性が唸った。


『うーん、おかしいですね』

「まあ土曜日に来たのは確かですけど。それでですね、工事の後に妙な機械がつけられているのを発見しまして」

『機械……ですか。例えばどのようなものですか?』

「カメラのようなものです」

『ゆ、ユニットバスにカメラがあったということですか!? ち、ちょっと待ってくださいね。修繕を委託をしている会社の方に確認を取って、折り返させて頂いてもよろしいでしょうか』

「ええ、構いません」


 対応してくれた女性は、焦った様子で電話を切った。

 そりゃそうだ。あれが盗撮のため仕掛けられたカメラだったなら大問題に発展しかねない。

 15分程すると、折り返しの電話が掛かってきた。


『申し訳ございません、どうも工事に伺った者は本日の朝一番に辞職を申し出てから連絡が取れないようでして……』

「じゃあやっぱり……機械を仕掛けていて、こちらが気付いたことを知ったのでしょうか」

『そうかもしれません。一度こちらでも確認させて頂きたいのですが、その機械というのはお手元にございますか?』

「回収して家に置いてあります」

『承知致しました。可能でしたら——』


 結局、今日の仕事の後に家まで管理会社の人が来ることになった。

 となれば、なるべく早く帰らないといけないな。

 上司にはまた嫌な顔をされるだろうが、こればかりは仕方がない。



「お先に失礼します!」


 ちゃんと定時に帰っているというのに、ため息で返事をしてくれるなんていい上司だ。

 まあそんなことを気にしちゃいられない。早く帰らないと……貴志は駆け足で駅へと向かった。



「ただい……ま?」


 いつも通り鍵を開けて家に入ると、部屋の中には信じられない光景が広がっていた。

 ベランダの窓ガラスが割られていて、外から風が吹き込んでいる。


「ア、アイリス……ッ!?」

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