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プロローグ — どうしてこうなった?

 改めて考えると、今はとんでもない状況だ。

 貴志(たかし)はごくりと唾を飲み込む。

 あの薄い扉の向こうでは、異世界の少女——アイリスがあられもない姿になっているはず。

 彼女はこれからシャワーを浴びるのだから、服を脱ぐのは当然だ。

 だからといって、貴志は覗きなんて真似を絶対にしないと決めていた。

 そんなことをして嫌われでもしたら、しばらく……いや、下手したら一生引きずるに決まっているのだから。

 騎士の誓いよりも硬く目を閉じ、貴志は彼女のシャワーが終わるのを待っていた。

 

 それなのに——。

 

 不意にガチャリとドアが開いて、あろうことか少女の方から顔を覗かせてきた。

 もちろん()()()()()()姿()で、だ。


「縺ュ縺�€√←縺薙〒縺ソ縺壹r縺上�縺ョ?」


 アイリスは申し訳程度に手で体を隠しながら、何かを訴えている。

 

「ああ、なるほど」


 おそらく異世界からきたであろうアイリスは、シャワーの使い方が分からなかったのだろう。

 この国に生きる現代人としては当たり前すぎて、使い方を説明するのを忘れていた。

 貴志は反省しつつ、アイリスのいるユニットバスへ入った。

 

 貴志の家はワンルームで、シャワーがある空間はとても狭い。

 トイレと風呂、洗面台が同じ空間に備え付けられた所謂(いわゆる)3点ユニットバスなのだからそれは当然で。

 だから貴志が室内に足を踏み入れると、どうしても少女と密着するような形になってしまう。

 柔らかな〝何か〟が背中に当たる感触があって、貴志は正気を保つため歯を食いしばった。それはもう、奥歯を砕かんとする勢いで。

 ここで「いただきまーす」と手を出してしまうのは簡単だ。

 しかし、それをしてしまえば少女には二度と会えなくなってしまうだろう。貴志はそれが嫌だった。

 ともすれば、塀の中へ入ることにすらなりかねないとなれば尚更だ。

 

「ひぃひぃ、ふぅ……っと」


 思わず息が荒くなった貴志だったが、なんとか心を落ち着けて、実演のためにレバーを捻ってみせる。


「こんな感じでここを捻れば水が出てくるんだ。分かる?」

 

 少女は勢いよく出てくる水に驚き、目を丸くしながらもこくりと頷いてくれた。

 言葉は分からずとも、なんとか理解をしてくれたようでなによりだ。


「本当はトイレ側が濡れないように、カーテンを引いて欲しいところだけど……」


 トイレ側と風呂側を区切るカーテンは、先々週の土曜日に、滑って掴まった勢いで壊してしまっていた。

 レール自体が破損してしまったから、管理会社に連絡しないとな、と思いながらも行動を起こしていなかったのが悔やまれる。

 

「ま、あんまりトイレ側へ跳ねないように注意して風呂桶の中で浴びるってことで。分かった?」


 ところどころジェスチャーを交えなんとか説明をすると、アイリスはまたもこくりと頷いてくれた。

 どうやらこれでトイレ側がびしょ濡れになるという事態は避けられそうだ。

 たまにシャワーが荒ぶって、トイレットペーパーが濡れた日は最悪の気分になるからな。


「これがシャンプー。髪、洗うやつ。そんでこっちがボディソープ。体、洗うやつ。オーケー?」


 この説明には首を傾げていたけど、まぁ使ってみれば分かるだろう。

 と、そこまで説明した貴志は急いで室内から飛び出した。なぜなら、もっと必要なものを忘れていたからだ。

 それは——。


「はい、これタオルね。ここ置いとくから」


 貴志はアイリスの裸を見ないように、そっぽを向きながらトイレの蓋の上にタオルを置く。

 危ない危ない、これを忘れたら出てきたとき大変なことになってしまうところだ。

 焦りなのか緊張なのか、貴志はじっとりと滲みだした汗を拭った。


「縺ゅj縺後→……」


 いつまで経っても耳に馴染まない言語でアイリスは何かを呟くと、ユニットバスのドアを閉めた。

 しばらくすると、シャワーの水音が聞こえてくる。

 どうやら使い方はちゃんと伝わっていたらしい、と安心して貴志はその音に耳を傾けた。

 見るのは我慢したんだから、音を聞くぐらいは許して欲しいと誰かに許しを請いながら。


「ぎにゃー!」


 シャワーの音と共に聞こえてきた猫のような悲鳴は、彼女のものだ。

 何かあったのだろうか……しかし今入るのは……。

 そう逡巡したが、何かあってからでは遅いと自分を納得させ、貴志は息をひとつ吸ってユニットバスのドアを勢いよく開けた。


「どうしたんだっ?」

 

 そこには、部屋の隅っこでぶるぶると震えているアイリスがいた。

 なるほど、どうやらいきなり出てきた冷水に驚いたらしい。

 その時に投げ捨てたのか、シャワーヘッドがトイレ側に転がり、水の勢いでぐるぐると回っている。

 まるでルーレットみたいだ、などと呑気に考えた瞬間だった。

 そのルーレットは最悪の出目を出して——。


「あばばばばば」


 ドアの外にいる貴志の顔を、冷水が襲いかかったのだ。

 それどころか、思わず尻もちをついた貴志の頭の上を飛び越すように、水は勢いよく部屋の中まで飛んでしまっている。

 とんでもない惨状に貴志が固まっているうちに、それは水たまりを作っていく。


 はぁ……。どうしてこんな状況になってるんだっけ?

 貴志は冷めた頭で、今日起こったことを順に思い返した。

★お願い★

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