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僕たちは古い校舎を背に、缶蹴りをして遊んだ、僕が缶を蹴り、たっくんが缶を蹴り、園子が缶を蹴り、サトコが缶を蹴る。その度に僕たちは、校舎の影や、空き教室に隠れ、鬼が探しに来るのを待つ。
時間はあっという間だった。気付けば、辺りは夕暮れ時だった。
「そろそろ帰るか」とたっくんが言う。
「ねえたく‥この子実は帰る家が無いのよ」
「は?お前放浪者け?」
「東京から出てきてるの!言い方考えなさい」と、サトコに諭され、たっくんは、シュンとなる。
「まあ帰る家が無いならウチに来ねぇ‥ウチは割りと融通がきくしな」とたっくんが言う。
有り難くお邪魔することにした。
たっくんの家は、日本家屋という言葉がよく似合う
お屋敷のような家だった
「びっくりしたろ‥こう見えても俺んち村長の家系だからよ」
「村長って家系なの?」
「さあ知らね」とたっくんは笑う。
ん‥と彼に促され、そのお屋敷に踏み込む。
「まっここらの家は皆こんなもんだけどな」
「へ?」
「日本家屋って大体こんなもんだべ」
「ただいまー」とたっくんが言い、僕は「おじゃましまぁす」とそれに続く。
すると家の奥から、背の高い男の人が出てくる
「あれ?たく誰だべその子?」
「友達‥東京から来たんだとよ」
「だとよって‥希薄な交友だな‥で?君‥名前は?」
「あの‥佐藤優志です」
「ゆうし?どういう漢字?」
「優しいを志すで優志です」
「ほえー‥いい名前な」と青年は感嘆の声を挙げる。
「俺はこいつの兄貴!武って名前だ宜しくな」とお兄さんはカラカラと笑う。確かに兄弟だと思わせる、
磊落とした雰囲気を纏った人だ。
「ま、好きなだけ泊まってけ‥東京から来た子なら大歓迎だべー」と言いながら、彼は部屋に引っ込んでいく。
僕にとっては初めての事ばかりだ。
「良かったな‥当面ウチにいろよ優!」とたっくんはニヤニヤしながら言う。
本当に良いのだろうか‥と思う反面。友達の家にお泊りをすると言う状況に興奮を隠せない。
その日の夜は、彼と語り明かした。好きな野球チームの事‥芸能人のことや、たっくんの学校の事、この村の事‥どれも新鮮で、この上ない刺激だった‥
「そだ‥園子の妹には会ったか?」
と、たっくんが切り出してきた。
「園子の妹‥?確か神社の一人娘だ!とか言ってたけど‥」
「ああ‥そりゃあ騙されたな‥双子の妹が居るで
“やしろ”って言う優しい子やさ」
「ぜひ合うべきだべ!優しばらくこの村に居んだろ?やしろは園子と双子とは思えないくらい優しくてべっぴんさんだぜ」と彼は笑いながらいう。彼のおどけた物言いが面白くて、僕もつられて笑う。
「やしろ‥さん?か‥会ってみたいかも」
その日は夜更かしをして話し込んだ。月の綺麗な秋口の風が僕たちの頬をすっと撫でる感触がする。