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氷と花の  作者: 千雪はな
最終章 オルトランド王国へ
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拭えない不安

幸せな茶会から一夜明けた今日、いよいよオルトランドまで移動をする。


ユリセラとオルトランドの国境はどこも深い森で覆われている。ロザリーは森の中で襲われたというから、できれば避けられないかともチラッとは考えたが、他の経路――海路やレキストリア帝国を経由するのは現実的ではない。結局、比較的平坦で森を通る距離が一番短く、状況も把握しているということで、普段から往来に使うガララの砦へ向かう経路が選ばれた。


出発の前にもう一度、警護体制をロザリーも一緒に確認した。


「オルトランドの近衛兵団が馬車の前後左右を固め、ユリセラの王城からの護衛が更にその前後に。そして、この宮殿からは、ここから最も近いシセイレンの砦の騎士団も加わります。


シセイレン部隊は森の中での移動にも慣れていますので、小部隊に分かれて、道の脇を通り、オルトランド部隊の左右の警護を補佐します」


警護団を取りまとめるユリセラの近衛兵フィリップが説明をしている。彼はこの三年程の間、ロザリーの護衛を務めていたが、今回、オルトランドまで送り届けたところでその任を解かれる。最後の任務を果たすべく、その真剣さが伝わってきた。


「我々ユリセラの護衛団は、入国許可をいただいているガララの砦まで護衛を務めます」


ロザリーは俺と並んでソファに座り、膝の上に置いた手を固く握りしめて、その説明を聞いていた。


俺はその手の上に自分の手を重ねて、ロザリーに尋ねた。


「警護体制としては十分だと思う。それでも怖いものは怖いだろうから、どんな不安があるか教えてくれるか?」


「あの……警護体制に不安があるわけではないんですが…」


「それでもいいから教えてくれ。何かできるかもしれないから」


「森を抜けると思うと、どうしても前に襲われた時のことを思い出して……大丈夫って思っても、考えたくもない光景が次々に頭の中に浮かんできてしまうんです」


ロザリーは、さらに手を固く握って続けた。


「もし、どこか隙をついて馬車の扉を開けられたら…、レイモンド様が刃を向けられるようなことがあったら、と……」


「それなら」とオスカーが口を開いた。


「私が、馬車に同乗してもよろしいでしょうか。御者台より確実に敵を迎え討つことができると思います」


「オスカー様が危険になりませんか…?」


「お二人をお守りするために、私の危険は変わりませんよ。貴女様を悲しませないよう、殿下は勿論、私自身もできる限り傷を受けないよう努めますので」


「では…、森を抜ける間は馬車に乗っていただけますか」


「はい、かしこまりました」


オスカーの落ち着いた返事に、ロザリーも小さく微笑み返した。


どうしても拭えない不安の気休めにはなるだろうか。オスカーの馬車への同乗が決まり、警護体制の確認は終了した。


 ◇ ・ ◇ ・ ◇


馬車の準備が整うまでもう少し時間がかかるというので、俺とロザリーは用意された部屋で待つことになった。


部屋にはオスカーやオリビアなど、いつもの側の者達だけで他愛もない話をして寛いでいたが、ロザリーはやはり緊張しているのか口数が少なく、聞かれたことには答える程度だった。


それが、ふとロザリーから口を開いた。


「あの…」


「ん?どうした、ロザリー」


「レイ様にお願いがあるのですが…」


「何でも言ってごらん」


―――出発前の緊張した中で、お願いとは何だろうか。叶えてあげられることならいいのだが……


「手を……」


「手を?」


「繋いでいてくれないでしょうか?」


「えっ?」


―――そんなことでよかったのか?


「あっ、やっぱり忘れてください。そんな子供じみたこと……」


「違う違う、ごめん、ロザリー。手ならいくらでも繋ぐ。むしろ、ずっと繋いでいたいくらいだ」


ロザリーを不安そうな顔にしてしまい、俺は慌てた。


「お願いだなんて改まって言うから、叶えてあげられるかと身構えていたんだ。


わかった。今日はずっと手を繋いでいよう」


俺がそう言うと、ロザリーは驚いた顔をした。


「森を抜ける間だけでよかったのですが、もっと繋いでいてもいいのですか?」


「ああ、わざわざお願いしなくても、いつでも繋いだらいいと思うが……」


誰かと手を繋ぐことなんて子供の頃からほとんどなかった。むしろ手など繋がず、一人でしっかり立つよう言われてきたから、加減がわからない。きっとロザリーもそうなんだろう。思わず後ろを振り返ってオスカーに助けを求めた。


「ええ、お二人が繋ぎたいと思われた時に、手を繋がれたらよろしいと思いますよ」


そう言われて、俺はロザリーに右手を差し出すと、ロザリーも遠慮がちにそこに手を乗せた。その手をお互いに握って、顔を見合わせて笑った。

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