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氷と花の  作者: 千雪はな
第7章 ふたりで前へ
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夜明けの動揺

ふと目を覚ますと、部屋はまだ薄暗かった。目の調子がだいぶ戻り、明るさで時間がだいたいわかるようになっていた。


微睡(まどろ)みながら眺める天井が、カーテンの隙間から漏れる光でうっすらと明るくなっているから明け方だろうか。もう少し眠ろうかと右へ寝返りを打ったら、目の前にロザリーの顔があった。


―――えっ⁈


驚きのあまり声も出なかったが、意味がわからなかった。鼻先と鼻先が付きそうな距離にロザリーの顔がある……。


ロザリーが俺の腕を枕にして眠っていた。


―――俺の部屋だよな?


腕を押さえられた状態であまり身動きが取れないが、天井も寝台のヘッドボードも見慣れた物だった。


夢か幻じゃないかとその頬に触れると柔らかく温かかった。そういえば熱があるロザリーを抱き締めていた気がする。


―――熱は下がったようでよかったが、なぜ並んで寝ているんだ?


「殿下、大丈夫ですか?」


「うわぁ!」


不意に小声で話しかけられて驚いた。心臓がばくばく鳴っている。


「驚かせて申し訳ございません」


「ああ、オスカーか…」


俺も小声で返した。


「ロザリー様と眠ってしまわれたので、そのままこちらで眠っていただきました。オリビア殿もご存知ですので、問題ございません。朝まではまだしばらく時間がありますので、もう少しお休みください」


「あ、ああ…わかった」


そう言われて目を(つぶ)ってみたが、どきどき心臓の音がうるさくて眠れそうにない。


「なぁ、オスカー」


「はい、どうされましたか?」


一旦、壁際に下がったオスカーが戻ってきた。


「腕を抜くのを手伝ってくれないか?」


「さすがに(しび)れましたか?」


「…ああ、そうだな」


オスカーがロザリーの頭をそっと持ち上げ、腕を抜いた代わりに枕を入れてくれると、俺は少しロザリーから離れるように左へ移動した。


腕は思いっきり痺れていたが、それはなんだか嬉しかった。


腕枕をしているのは嫌ではなかった。むしろもっとしていたいくらいだが、あんなに近くては絶対に眠れるわけがなかった。既に思いっきり抱き締めたくなっていた。抱き締めるだけで終われただろうか?


長いまつ毛、頬の丸み、柔らかそうな唇……薄暗い中であんなにはっきりと見える距離にいたロザリーを思い出しただけで、再び鼓動が早くなる。


ふぅぅぅ………。


―――落ち着け。落ち着け。落ち着け。


少し距離を置いてロザリーの穏やかな寝顔を見た。彼女を何よりも大切にしたい気持ちを思い出し、彼女に背を向けて目を瞑った。結局、朝まで眠れなかったけれど。


 ◇ ・ ◇ ・ ◇


夜がすっかり明けると寝台の端に座り、眠るロザリーを眺めていた。目を覚まして驚き、真っ赤になって慌てる彼女は可愛かった。


少し落ち着いたところでロザリーを抱き締めた。朝からこの可愛らしい顔が見られるなんて夢のようだ。


「ロザリー、昨日オスカーも言ったが、いつでもここに来てくれていいから。もうしばらくの間は俺からは会いにいけそうにないから、貴女が来てくれたら嬉しい」


「レイ様、ありがとうございます」


そう言って、昨日と比べると少し明るい顔をして、迎えに来たオリビアと自分の部屋へと戻っていった。



その後の俺は、日中になってもその腕にロザリーの感覚があるような気がして何度も腕を眺めていたら、オスカーに笑われた。


「お幸せそうですね」


笑われるのは(しゃく)だが、確かに幸せだ。


「お前達のおかげだ」


もっと感謝を伝えるべきだろうが、照れ臭くて、その一言が精一杯だった。

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