予期せぬ訪れ
フレディと話していたと思ったのに、いつのまにか眠っていたらしい。毒を受けた体は思った以上に弱っているようで、少し目覚めてはすぐに眠りに落ちるのを繰り返していた。
ふと目を覚ますと、部屋の隅でフレディが短めの模擬刀で型の練習をしていた。長い手足で、まるで舞っているようだ。それでいて動きが早い。その動きついていけなくて俺はいつも負けていたな、と懐かしく思い出していた。
「あ、殿下。目覚められましたか?昼食をすぐにご準備できますが、どうされますか?」
「いや、もう少し後にしたいな」
喉が痛くて、あまり食欲がなかった。
「かしこまりました。では、お茶でも飲まれますか?」
「ああ、頼む」
フレディは剣を置いて、お茶の用意を始めた。
「そういえば、お前の剣を見るのは久しぶりだな」
「そうかもしれないですね……」
なんとなくフレディの歯切れが悪い気がした。
「なぜ急に剣の練習をしていたんだ?」
「今日はこの後、この城の騎士団の練習に混ぜてもらうんです。体が鈍るってぼやいていたら誘っていただいて」
フレディが話しながら俺が起き上がるのを手伝い、寝台の上に小さなテーブルを用意して「どうぞ」とティーカップを置いた。
一口ずつゆっくりとお茶を飲む。喉を通すのは辛いが、ハーブの清涼感は少しだけその痛みを楽にした。
「お前の手合わせ、見たかったな」
「そんなお見せするほどのものではないですよ」
「そうか?強かったじゃないか。昔、なかなか勝てなかったから、今のお前を見てみたいじゃないか。
そうだ、俺が回復したら久しぶりに手合わせしてくれないか」
フレディが苦笑いした。
「そうですね……」
「何か都合の悪いことでも?」
「まあ……そんなところです。昔、負けたくなくて必死でやったら殿下に怪我をさせてしまって、ロイド侯爵にものすごく怒られたことがあるんですよね…」
剣の練習には怪我がつきもので、俺が怪我をしても相手は罰せられないはずだ。打ち身や擦り傷はしょっちゅうあったが……
―――一度だけ指を骨折したことがあったな……その時の相手がフレディだっただろうか?
「それで俺とは手合わせしてくれなくなったのか?」
「………そうだったかもしれないですね」
フレディの居心地悪そうな顔に、俺は吹き出した。
「い゛たたた…」
笑ったら脇腹が痛かった。
◇ ・ ◇ ・ ◇
「そろそろ交代の時間ですね」
そう言いながら、フレディが片付けをしていると扉が開いた。しかし、誰も入ってこない。
フレディが少し警戒した様子で俺の寝台の横に立った。何か不審な動きでも……と少し不安になった時、オスカーの声が廊下から聞こえてきた。
「一度、中にお入りください」
フレディの警戒が緩んだ。
オスカーに促されて入ってきたのは、ロザリーだった。
「ロザリー、どうしたんだ?そんな格好で……」
ロザリーは、髪を緩く一つに編んで寝衣姿、そして裸足だった。
「あの……えっと…、…戻ります………」
「ロザリー様、どうぞお掛けください。殿下も少しお待ちください」
そう言ってオスカーはロザリーに椅子を勧めた。俺がいる寝台の横にも椅子はあるが、勧めたのはここから離れたテーブルの方だった。待てというが、なぜだろうか。
「アルフレッド、お茶を」
「はい、只今」
「………あ、やっぱり…」
ロザリーはひどく遠慮して座ろうとしない。
「少し落ち着いてから戻られませんか?お一人では心配ですので、アルフレッドに送らせますので」
「えっ、ロザリー、供を付けずに一人で来たのか?」
「殿下は少し黙ってお待ちいただけますか?」
「なっ⁈」
何なんだ。勝手なことはするなって、怒っていたばかりの彼女がこうやって一人で出歩いていたら、何かあったのだろうと心配じゃないか。
オスカーは、何を知っているというんだ。




