デビュタント
俺とロザリーがくぐった扉は大広間の二階への入り口で、そこは半円形のバルコニーのようになっていた。二人で手摺りまで進み出て、揃ってお辞儀をした。
そしてその脇の壁に沿った階段を降り、広い踊り場に立った。
大階段の上の舞台のようになった踊り場には、ユリセラ国王ライアンが待っていた。ロザリーを一旦彼に託し、俺は一歩後ろに下がった。
楽団の演奏が止まり、場内は厳粛な空気に包まれた。
ロザリーはその場に跪き、ライアンが声高らかにロザリーの成人の儀の宣言を行った。
「ユリセラ王国王女、ロザリー・フローラ・ウィレンス、我が国の王族として、責務を果たすべき一員となったことをここに宣言する。
いついかなる時も、たとえ離れていたとしても、ユリセラの民を思い、与えられた任を果たすことを誓うか」
「はい、誓います」
ロザリーの透き通った声が響いた。そして立ち上がり、皆に向かって深くお辞儀をすると、会場からは拍手と歓声が沸いた。
その拍手が鳴り響く中、ライアンは言葉を続けた。
「この場を借りて、王女ロザリーの婚約を発表する。
王女ロザリーは、ここにいるオルトランド王国第一王子、レイモンド・フロスト・ベルハルトと婚約し、まもなくオルトランドへと向かう。
ユリセラ王国からは離れるが、両国の架け橋となり、より一層の友好と平和に貢献してくれることを期待する」
ライアンはロザリーの方を向き、穏やかな声で付け加えた。
「そして、何よりも貴女の幸せを心から願う」
その言葉を受け、ロザリーは再びお辞儀をした。俺もお辞儀をして静かにロザリーの横に進み出ると、彼女の手の甲にそっと口付けた。
拍手が一段と大きくなった。
まもなくロザリーがユリセラを離れることに、何のどよめきもなかったところを見ると、ライアンは客人らにそのことまで事前に話していたようだ。
先の宣言の『たとえ離れていたとしても』、これもライアンがロザリーのために付け加えたのだろう。
ライアンの兄として妹の幸せを願う気持ちが伝わってきた。
祝福の拍手を聞きながらロザリーを見ると、目を潤ませながら嬉しそうに笑っていた。
俺も彼女のその顔を見て幸せな気持ちになった。改めて会場を見渡すと、皆、ロザリーの幸せを願うように笑顔で拍手をしていた。
しかしその隅の方に、陰鬱な空気を纏う二人がいた。前もって聞いていた特徴から、ガレンシング公爵とその息子、ディランで間違いないだろう。
幸せな気分がスッと引き、背筋に寒気を感じるほどだが、ロザリーにはそれを感じてほしくない。俺は笑顔を作り、大階段を降りるロザリーをエスコートした。
◇ ・ ◇ ・ ◇
階段を降りるとその両側にオスカーとフレディが立っていた。その目線から、既にガレンシング家の二人を把握していることがわかった。
彼らを信じて、予定通り夜会での短い時間を楽しむことにした。
「ロザリー、一曲踊ってくれますか?」
そう言って左手を差し出した。
「はい」
ロザリーは嬉しそうにその手を取った。俺は彼女の背中に右手を添え踊り始めると、ロザリーは少し頬を赤らめて俺を見上げていた。こんなにも顔が近いものだっただろうか、と俺まで赤くなりそうだった。
俺たちが踊りながら大広間の中央へと進み出るうちに、周りも続いて踊り出した。
場内は一気に華やかな雰囲気となった。スカートをふわりと舞わせて踊るロザリーは楽しそうで嬉しかった。
警戒も兼ねて周りを見渡すと、ガレンシング公爵とディランはこちらには興味がないような振る舞いで、それぞれに近くの客人と歓談している様子だった。
距離もあるので少し安心してロザリーの顔を見た。俺と目が合うと、ロザリーはにっこりと微笑んだ。
「ロザリー、楽しいか?」
「ええ、とっても。レイ様とこんなふうに踊れるなんて夢のよう」
「俺もだ。貴女とこのような場で踊れることが、いまだに信じられない。本当に幸せだ。
ロザリー、俺を選んでくれてありがとう」
「レイ様が私を選んでくださったんです」
少し照れたように笑うロザリーは本当に愛しかった。この時間を彼女のことだけ考えて過ごすことができたら、どれだけいいだろうか……。
視界の端にガレンシング公爵親子、オスカー達を時々確認しながら、今この腕の中にいる大切なその人を守ることを一番に考えていた。




