少女の素性
砦に戻り、少女は医官に任せ、自分の執務室で書類に目を通していた。
治療が終われば報告が入ることになっている。
怪我の具合はどうか、抱えて馬に乗せてきたのは大丈夫だっただろうか、今ここで考えても仕方がないことに気を取られて、内容が一向に頭に入ってこない。
ぐるぐると考えている最中にノックもなく執務室の扉が開きオスカーが入ってくるものだから、思わず大きな音を立てて立ち上がってしまった。
その様子にオスカーも目を大きく開いて驚いていた。
「…殿下!?」
「急に入ってくるから驚いただけだ」
「え、…いつもと同じように入ったつもりですが…」
そうだ。オスカーは常にこの部屋を出入りするから来客でもない限りノックはしない。自分でも何を言っているのかわからない。
「………すまない」
「…いえ。それで、あの少女ですが、肩口の傷以外は大きな問題はなさそうとのことですよ。治療はもう少しかかるそうです」
「そうか…」
よかった―――安堵して椅子に身を預けるように座った。
「大丈夫ですか?ずっと張り詰めているようですけど…」
「心配を掛けてすまない。大丈夫そうと聞いたから、俺も大丈夫だ…はぁ、そうか。よかった…」
椅子の背に深くもたれて大きく息を吐く俺を見て、オスカーは少し安心したように笑った。
「それで、持ってきた物は?」
「こちらは彼女の身につけていた物です」
そう言って、オスカーは手にしていたトレーを机の上に置いた。
椅子に座り直し、それらを確認する。
ネックレス、扇子、そして短剣。そのどれにも紋章が入っていた。それは幾度となく目にしたことのある隣国の王家の紋章だった。
「やはりユリセラ王国の王女か…」
王女は16歳にならないと公の場には出ないのですっかり忘れていたが、以前、弟王子の2歳年上の王女がいると聞いたことがあった。