開き直る王子と従者の心得
ロザリーのいたずらっぽい登場で部屋の中は一気に明るくなった。
「ところで、ロザリーはこんな所に来てよかったのか?」
婚約については明日の夜会まで伏せておくはずで、ロザリーともその直前まで会えない予定だったのに。
「それが……、婚約のことがガレンシング公爵家に気付かれてしまったんです」
「何故?どこから漏れた?」
「誰かが漏らしたというより、準備の様子を見て勘付いたようで、今朝、ガレンシング公爵が兄様に詰め寄ってきたんです……」
なるほど、それは仕方ないかもしれない。
「それでライアン殿は認めたということか」
「はい、下手に隠しても無駄だろうと。そして、兄様は今日会う皆様に婚約のことをお話ししています」
「えっ⁈」
驚く俺を見て、ロザリーはクスッと笑った。
「私も驚いたんです。兄様が言うには、皆の目がある方が、ガレンシング公爵も手が出しづらくなるだろう、って。だから、私は堂々とレイ様の側にいて良いと。側にいて守ってもらいなさい、って」
そう言ってロザリーは少し照れた顔をして俺を見つめた。
「ロザリーがここで俺を頼りにしてくれるなんて…」
―――すごく嬉しい。
「決めたのは兄様ですが…」
「いや、ライアン殿に頼りにされても嬉しくないから、貴女が、ということにしておいてくれ」
ロザリーはクスクス笑った。
「もちろん、レイ様のことはとても頼りにしています。ご迷惑かと思いますが、お側にいてもいいですか?」
「迷惑なものか。貴女のことは必ず守る」
俺は、ロザリーを再び抱き締めた。
ロザリーも俺の背中へ手を回し、俺の胸元に頬を寄せた。目を閉じて、まるで俺の心音を聞いているようだった。そして、ふぅと息を吐いた。
「こうしていると安心します。レイ様が迎えにきてくださると信じていても、今日までがとても長く感じて……」
そう言ってロザリーは俺を見上げて微笑んだ。彼女がこうして腕の中にいると、なんと落ち着くんだろうか。俺も彼女を見下ろし、そのおでこにキスをした。ロザリーは嬉しそうに目を細めた。
「俺もこうしていると安心するな。ずっとこうしていたいぐらいだが、明日の打ち合わせもしないとな」
「そうですね」
ロザリーを腕から解放して、皆の方を向いた。
「すまない、待たせた。明日の予定を聞こうか」
ロザリーと一緒に来た執事が明日の招待客や会場の配置などが書かれた書類を机に並べ、その周りに集まった。
俺は書類が見やすい位置に立ち、その横に来たロザリーの肩を抱いた。
ロイド侯爵とオスカーも書類を一つずつ確認していく。
が、一人だけ様子が違った。
「フレディ、どうかしたのか?隣の部屋で休むか?」
硬い顔をして黙って一番離れた椅子に座っている。どこか痛むのか、それとも長旅の疲れが出たのか……
「いえ、……本当に殿下は王子だったんですね…」
「は?何を訳のわからないことを…」
そのやり取りを聞いてオスカーが吹き出した。
「殿下、申し訳ございません。我々は殿下が大切に想われる方と過ごされる間は警護に徹し、壁のように気配を消すよう教えられてきました。もちろん、アルフレッドも承知しておりますが、以前の殿下なら我々の存在に照れてぎこちなくなると思っていたので、殿下のご様子に驚いたのでは。
私は、前回のこちらへの訪問の時、殿下のご様子を拝見して、お心持ちが変わられたことを感じておりましたが、アルフレッドには突然の変化で…」
オスカーは、いつも生意気で何でも要領よくこなすフレディの調子が狂っているのが可笑しいようで、横を向いて肩を震わせて笑いを堪えている。それを見て、フレディは不貞腐れていた。
「前回の訪問で、一体何があったんですか?」
確かに、以前の俺なら、いくら素知らぬ振りをしてくれていても、気になって先程みたいにゆっくり二人だけの時間を取ったり、ましてやキスすることなんてなかっただろう………改めて考えると恥ずかしくなってくるが。
「今しか時間がないとか、次いつ会えるかわからないと思ったら、周りを気にしている余裕がなくなってたのかもしれない。驚かせたのなら、すまなかった」
そう言って俺が笑うと、フレディもため息を吐いた後、ようやく笑った。
「いや、でもさっきのは何かの劇でも見ているようでしたね。殿下がこう、ロザリー様を抱き締めて……」
ゴンッ!
「見て見ぬ振りをしろ、馬鹿者!」
ロイド侯爵のげんこつがフレディに落ちた。フレディの調子が戻ったようで良かったが、あのげんこつは痛そうだ。
フレディに先程の様子を描写されて恥ずかしくなったロザリーが俺の後ろに回り込み、背中に顔を埋めていた。きっと顔が真っ赤になっているだろう。可愛い様子が見えなくて少し残念に思った。




