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氷と花の  作者: 千雪はな
第6章 ユリセラの夜会
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春の訪れ

俺は馬車に乗り、ユリセラ王国のほぼ中央に位置する王城ウィレンウォード城に向かっていた。国王の名代として。


陛下は俺の急な決断に笑っていた。陛下の名代を前提に招待を準備したことも。


「私が出席してもよいのであろう」と仰った時には、冗談だと思っても少し焦って、しどろもどろになった。


俺の反応を楽しむ陛下は、エバンス伯爵の言った通り、いずれこの決断をするだろうとお見通しだった。


「この国とユリセラ、どちらの民からも祝福される縁にしなさい」


それが陛下からの言葉だった。


勿論、そのつもりだ。特にオルトランドの民の祝福がなければ―――民に受け入れられなければ、ロザリーがここで幸せになれないのだから。


 ◇ ・ ◇ ・ ◇


オルトランドを出発して三日目、春を迎えた丘陵地には花が咲き乱れ、その向こうに美しい白い石造りの城が見えてきた。


「殿下、まもなくウィレンウォード城に到着する前にもう一度だけ。くれぐれもお一人では…」


「わかっている。常に貴殿たちと共に行動し、周囲には注意を払う、だろう?」


馬車の向かいの席にはロイド殿が座り、ここまでの道中、度々小言……いや、俺の身を案じる言葉を掛けてくれていた。


今回のユリセラ訪問は、ロイド侯爵とオスカーだけでなくフレディも側近兼護衛として同行していた。


いかにも騎士らしい体格のオスカーに対し、フレディは更に長身だがひょろっとして、優男(やさおとこ)といった風情だ。しかし実は剣の腕は立つ。随分前に俺とは手合わせしてくれなくなったが、おそらく俺に勝ってもあまり褒めてもらえないのが面白くなかったからだと思っている。


けれども、俺の側にいる以上は必要だからと剣の鍛錬は続けていると、オスカーがこっそり教えてくれたことがあった。


そのオスカーとフレディが馬車の左右を固めてくれていた。


この数ヶ月、表立ってはユリセラに関する行動を起こさないことでガレンシング公爵家を刺激することなく、無事に過ごすことができたが、今回の訪問はそうはいかない。


ロザリーとの婚約を発表すれば何が起こるのかわからない。その不安に小さくため息を吐き、外を眺めた。


そこには―――フレディが並んで馬を走らせる兵にずっと話しかけていた。相手は少し迷惑そうにも見える…。


ロイド侯爵もやや心配そうだ。


「大丈夫か?あいつはどこに行っても緊張感がないからなぁ…」


「それは俺も同意する。でも、フレディのお陰で無用な緊張をせずに済むこともあるから、助けられていることも多い。本人には言いたくないが」


「確かに。本人に言えば調子に乗りますね」とロイド侯爵も笑い、馬車の中は和んだ。


ロザリーの待つウィレンウォード城まで、取り敢えず難しいことは忘れることにした。


彼女に会えるのは、素直に嬉しい。


 ◇ ・ ◇ ・ ◇


城へ到着すると、各国要人やユリセラ国内の貴族達で賑わい、城内の装飾も手伝って華やかな雰囲気となっていた。


客人の数から、かなり待つことは当初から予想され、通された部屋で明日の夜会の打ち合わせまでの時間を過ごしていた。


フレディは、テーブルに用意された焼き菓子を小さく齧って、しばらく考えてから「ん、大丈夫」と言って一つずつ食べていた。毒味でもしているのだろうか?頼むから、当たるような真似はしないでくれ。


「殿下、これ美味しいですよ」と、のんきに勧めてきた。


「いや、俺は遠慮しておく」


「いい加減にしろ、アルフレッド」


オスカーも見かねてフレディの前の皿を取り上げた。フレディは、わかりやすく拗ねてソファに倒れ込んだ。


とその時、扉がノックされ、ちょうど近くにいたロイド侯爵が対応した。


執事と(おぼ)しき者と、数名の侍女が扉の隙間から見えた。後ろには衛兵も立っているように見える。


―――何かあったのだろうか?


拗ねていたフレディも姿勢を正した。


でも、ロイド侯爵は穏やかに話しているので問題ないと思うが……。不用意に俺が扉に近づいてはいけないと思い待っていると、ロイド侯爵が侍女たちの入室を促した。


揃いの紺色のワンピースに白いエプロンを着けた侍女が三人……ん?


そのうちの一人はロザリーだった。


「侍女に紛れられてたかしら?」


もちろん侍女の服ではないが、同じような色のワンピースを着て、いたずらっぽく嬉しそうに笑った。


俺もつられて声を上げて笑った。


ロザリーなら何か楽しいことを考えてそうな気がしたが、こんなに早く会えると思わなかった。不安があった分、嬉しい気持ちが溢れてきた。


「ロザリー、会いたかった!」


ロザリーに駆け寄り抱き締めた。もう周りに誰がいようと関係なかった。


「レイ様…、苦しい……」


ロザリーがそう言うまで抱き締めてしまった。

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