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氷と花の  作者: 千雪はな
第5章 再会
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しばしの別れ

昨晩の夕食会は、会談の一部の正式な場ということでロザリーは呼ばれなかった。その代わり、今朝早くに少しだけ時間を作ってもらえた。この後すぐに、ライアンが王太后の離宮へ移動するのに合わせてロザリーもここを離れるのだ。


もっとロザリーとの時間を持ちたい。できれば二人だけの時間を過ごしたい―――ただ、今はこうやって会えるだけでも幸せだと思った。


昨日も使った広間には、俺とロザリーの他には、ライアンとオスカーしかいない。



「レイ様、くれぐれもお気を付けくださいね」


ロザリーは俺の手を取って心配そうにそう言った。


俺はたまらずロザリーを抱き寄せた。


「貴女こそ気を付けて。春には必ず迎えに来るから」


「はい、お待ちしています」


俺の腕の中でこちらを見上げるロザリーは本当に可愛いらしくて、思わずおでこにキスをした。


ああ、本当にこのままオルトランドへ連れて帰れたらいいのに―――その本心を口にするのは、ぐっと(こら)えた。


俺はロザリーを腕から離すと、右手を伸ばして彼女の頬に触れた。


ロザリーも俺の手に頬をそっと預け、その温かさを確かめるようにしばらくの間、目を閉じた。


「レイ様、お待ちしていますね」


もう一度そう言って潤んだ瞳を細め、にっこりと微笑むと、ロザリーは一歩下がり扉の方へと体を向けた。


が、くるりと振り返ると俺の胸に飛び込んだ。顔を胸に(うず)め、両手を俺の背中に回しぎゅっと抱き締めてきた。力一杯なのかもしれないが、痛くも苦しくもない。


ロザリーの国や誰かを思う気持ちは時々驚くほど強いと感じるが、力はこんなにも弱いのだ。そんな彼女を近くで守ってやれないなんて。


………ああ、ロザリーを残して帰国する決心が揺らぎそうだ。このまま連れ帰ってしまおうか。


俺もロザリーをそっと抱きしめ、彼女の髪にキスをした。髪からはほのかにバラの香りがした。


「ローズ、そろそろ…」


ライアンの声に促され、顔を上げたロザリーはとびきりの笑顔だった。


でも、扉の方へ向く間に、瞳には涙が溢れてきたようにも見えた。ロザリーは無言のまま足早に部屋を出ていった。


それで十分だった。春になったらあの笑顔のロザリーを迎えに来よう。


 ◇ ・ ◇ ・ ◇


ロザリーがこの宮殿を離れた後、俺は抜け殻になって部屋で不貞腐れたいほどの気分だったが、そうもいかない。


ここへは会談に来たんだった。


会談は、クレッグ侯爵とその部下一人のみ。特に話し合わなければならないこともないということで、数ヶ月後のロザリーとの婚約発表までの詳細を詰めた。


とにかく内密に進めること。招待状は不自然にならないよう、隣国各国へ配り、オルトランドへも俺宛ではなく国王宛てとすること。ガレンシング家に気づかれないように、できるだけ目立たぬように準備を進めること。


ここで決められることをできるだけ決め、この地を離れた。無事に数ヶ月後を迎えられることを願って。

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