しばしの別れ
昨晩の夕食会は、会談の一部の正式な場ということでロザリーは呼ばれなかった。その代わり、今朝早くに少しだけ時間を作ってもらえた。この後すぐに、ライアンが王太后の離宮へ移動するのに合わせてロザリーもここを離れるのだ。
もっとロザリーとの時間を持ちたい。できれば二人だけの時間を過ごしたい―――ただ、今はこうやって会えるだけでも幸せだと思った。
昨日も使った広間には、俺とロザリーの他には、ライアンとオスカーしかいない。
「レイ様、くれぐれもお気を付けくださいね」
ロザリーは俺の手を取って心配そうにそう言った。
俺はたまらずロザリーを抱き寄せた。
「貴女こそ気を付けて。春には必ず迎えに来るから」
「はい、お待ちしています」
俺の腕の中でこちらを見上げるロザリーは本当に可愛いらしくて、思わずおでこにキスをした。
ああ、本当にこのままオルトランドへ連れて帰れたらいいのに―――その本心を口にするのは、ぐっと堪えた。
俺はロザリーを腕から離すと、右手を伸ばして彼女の頬に触れた。
ロザリーも俺の手に頬をそっと預け、その温かさを確かめるようにしばらくの間、目を閉じた。
「レイ様、お待ちしていますね」
もう一度そう言って潤んだ瞳を細め、にっこりと微笑むと、ロザリーは一歩下がり扉の方へと体を向けた。
が、くるりと振り返ると俺の胸に飛び込んだ。顔を胸に埋め、両手を俺の背中に回しぎゅっと抱き締めてきた。力一杯なのかもしれないが、痛くも苦しくもない。
ロザリーの国や誰かを思う気持ちは時々驚くほど強いと感じるが、力はこんなにも弱いのだ。そんな彼女を近くで守ってやれないなんて。
………ああ、ロザリーを残して帰国する決心が揺らぎそうだ。このまま連れ帰ってしまおうか。
俺もロザリーをそっと抱きしめ、彼女の髪にキスをした。髪からはほのかにバラの香りがした。
「ローズ、そろそろ…」
ライアンの声に促され、顔を上げたロザリーはとびきりの笑顔だった。
でも、扉の方へ向く間に、瞳には涙が溢れてきたようにも見えた。ロザリーは無言のまま足早に部屋を出ていった。
それで十分だった。春になったらあの笑顔のロザリーを迎えに来よう。
◇ ・ ◇ ・ ◇
ロザリーがこの宮殿を離れた後、俺は抜け殻になって部屋で不貞腐れたいほどの気分だったが、そうもいかない。
ここへは会談に来たんだった。
会談は、クレッグ侯爵とその部下一人のみ。特に話し合わなければならないこともないということで、数ヶ月後のロザリーとの婚約発表までの詳細を詰めた。
とにかく内密に進めること。招待状は不自然にならないよう、隣国各国へ配り、オルトランドへも俺宛ではなく国王宛てとすること。ガレンシング家に気づかれないように、できるだけ目立たぬように準備を進めること。
ここで決められることをできるだけ決め、この地を離れた。無事に数ヶ月後を迎えられることを願って。




