心からの選択
ロザリーにこの先の人生を共に歩んでほしいと告げた。
しかし、それが兄のライアンを守れる選択肢だとしても、俺のことも心配してくれるロザリーは、差し出した俺の手をなかなか取ってはくれないだろう。
ロザリーは俺の手を見つめたまま、スカートをギュッと握り締めていた。この手を取れば、俺がガレンシング公爵家が一番消したい相手となる。
だから、その選択をするのを躊躇っていた。
「ロザリー…」
呼びかけると、スカートを握る手に力が入った。
「危険とか、陰謀とか、そういった事を一度忘れて考えてみてくれないだろうか」
ロザリーは顔を上げてこちらを見た。
「もうこの国にはガレンシング公爵子息以外との選択肢はないんだろう?名前は何と言ったか…ディランだったか?
そのディランという者に対して、俺の立場であれば貴女の婚約者候補に名乗りを上げられると思うんだ。
その男と俺とでロザリーが選んでくれないか?
ロザリーがその男のことが好きで選ぶのなら、貴女の恋を邪魔するつもりはない」
どの選択をしても誰かに危険が降りかかるのなら、少し乱暴かもしれないが、ロザリーの好き嫌いに賭けてみた。
―――会ったこともないし会いたいとも思わないが、そのディランとかいう奴よりも、俺を選んでくれ。
俺を選んでくれれば、ロザリーをオルトランドへと連れ出し、ガレンシング公爵家の陰謀から守ってやれる。
ロザリーは思わぬ問いかけに驚いた顔をしていた。もうひと推しとばかりに俺は続けた。必死だった。
「俺とライアン殿に降りかかっている危険は、ガレンシング公爵家が悪いのであって、貴女が悪いわけじゃない。
俺たちのどちらかには、どうしても危険が降りかかるのは避けられないらしい。でも、わかっているんだから備えられる。もし命を落とすことになったら備えが不十分だった俺かライアン殿が悪いんであって、貴女は悪くない。
な、だから貴女は、ただディランと俺とどちらを選びたいかだけで決めていいんだ」
「な、って言われましても……」
ロザリーは完全に戸惑っている。
「はっ、はははは…すごいな、レイモンド殿」
部屋の隅でライアンが大笑いしていた。
「ローズ、貴女が幸せになれると思う選択をしなさい。
その男も貴女に選んでもらったら、簡単には死なないと思うぞ。な、レイモンド殿」
「兄様まで……」
「ああ、そのつもりだ」
ライアンの呼び掛けに答える俺を見て、彼女は困ったような顔をしていた。
「あの……、本当に私の気持ちだけで選んでよろしいのですか?」
「是非、そうしてほしい」
俺がそう言うと、ロザリーは視線を床に落としてしばらく考えた。
ロザリーの手はぎゅっと握りしめられたり緩んだり――彼女の葛藤を表しながらその手は迷っていた。
ドクン、ドクン、ドクン、ドクン…
自分の心臓の音が体中に響き、時間が長く長く感じた。
これまでのロザリーの笑顔を思い出し、俺を選んでくれることへの期待と、当然、ロザリーには俺の知らない時間があり、もしかしたらディラン・ガレンシングと良い関係を築いていてそちらを選ぶかもしれないと言う不安と……
緊張を逃そうと深く息を吸い、それを静かに吐き出そうとしたその時、ロザリーは顔を上げて、真っ直ぐに視線をこちらに向けた。
俺は思わず息を止め、背筋を伸ばした。
先程までの不安げな顔は穏やかになり、ロザリーは頬を少し赤らめた。
そして一歩こちらへ進み、俺の手を取ってくれた。
「レイモンド様、貴方のことを心よりお慕いしております。貴方の隣に、私が立ってもよろしいでしょうか」




