救出(後編)
残った団員は念の為に捜索を続けていたが、少女と共に馬に乗っていたと思われる者やその手掛かりになりそうな物は辺りには無いようだった。
俺はオスカーと共に少女の傍らに座り救護のソリを待っていた。
雪の冷たさが体を冷やしていく。早くこの子を暖かい所へ連れて行ってやりたい。
ふと目に入った少女の右の手のひらは擦り切れて血が滲んでいた。必死で手綱を掴んできたのだろう。俺は自分の左手に少女の冷え切った右手を乗せ、そっと包むように握った。今にも壊れてしまいそうで怖かった。
そして反対の手で風で乱れた少女の髪をそっと撫で、改めてその顔を見つめた。
まだあどけなさを少し残す輪郭に、長いまつ毛、その閉じられた瞳が開くとどんな表情をするのだろうか…。その真っ白な頬に血色が戻れば、もっと可愛らしいのだろうな、などと考えていると、頬に一筋の涙の跡があり、そっと拭ってやった。
「ここまでひとりで心細かったでしょうね」
「そうだろうな…」
___と、不意に背後から気配を感じた。
反射的に振り返ると同時に、森の奥から低い唸り声が聞こえてきた。
「オオカミだ!」
「全員、松明を用意!」
団員達が慌しく動き出す。
普段、オオカミは人間を襲うことは滅多にないが、血の臭いに誘われてきたのだろう。
一頭、二頭ではない。群れだ。
松明の火と距離を取りながらもジリジリとこちらに向かってきた。
次々に松明の火が分けられ、瞬く間に辺りは眩しいほど明るくなった。
森の奥で姿勢を低くしたオオカミ達も照らし出され、しばらく人間とオオカミの睨み合いが続いた。
俺は少女を無闇に動かさない方が…との葛藤をしつつ、少女を抱き上げた。
と同時に四班の班長サイオンの号令が響く。
「全員、退避!」
◇ ・ ◇ ・ ◇
オオカミは松明の多さにそれ以上迫ってくることはなく、全員無事に馬を待たせた所まで戻ってくることができた。
「オスカー」
「はい、殿下」
「この子は俺の馬で連れて帰ろうと思う」
「…殿下が抱きかかえられていかれると?」
「ああ」
「まあ、ソリの乗り心地も悪そうですし、よろしいのではないでしょうか」
なぜオスカーにそのようなことを問うたのか、よくわからないが、無機質なソリに寝かすのは違う気がした。
「でも、落とさないでくださいね」
「落とすわけないだろう!」
オスカーの余計な一言は近くにいた団員達の笑いを誘い、今日の捜索が無事終了したことを感じさせた。
俺は団員の手を借りて、毛布に包んだ少女を慎重に馬に乗せた。そして砦へと静かに馬を走らせた。
少女の背中に回した手から静かに息をしているのが伝わってきた。