王子の決断(前編)
王子レイモンド視点に戻ります。
滞在用にと用意された部屋は、机やソファが置かれ執務室として設えられた部屋を挟み、右手に主寝室、反対側に従者の部屋が用意されていた。
部屋に通され、俺はソファに座るとオスカーにも席を勧めた。
しかし、オスカーは座ろうとしなかった。
もう少しロザリーと過ごした時間の余韻を感じていたいと思っていたが、それを待てないような状況なのだろう。俺は座り直し、オスカーの方へ向いた。
「それでオスカー、話とは?」
先程廊下でも考え込んでいたが、最後にもう一度俺に話すべきかを考えているように見えた。
「オスカー、いい話ではない事は大体わかった。整理しないままで構わないから、隠す事なく話してくれ」
するとオスカーは、一呼吸置いて話し始めた。
「ロザリー様の婚約者候補の方についてです」
「遠縁の公爵子息との話か?」
「その方は…つい先頃、亡くなったそうです。そして次の婚約者候補は、ガレンシング公爵子息になるそうです」
「なんだって?」
俺は思わず立ち上がった。
オスカーが取り出したファイルを奪うように受け取り、机の上にユリセラ王室の家系図を広げた。公爵家までは全て名前が入っている。年齢も書き記してある。ただ、婚姻していればわかるが、婚約しているかまでは書き入れていなかった。
数年以内に結婚するものとして、ロザリーより一つ下から十歳上までの未婚の男子に丸をつけた。ガレンシング公爵子息を除いて6人、そのうち一人は亡くなったが…
「残りの5人とも婚約しているのか?」
オスカーは、先程のお茶の時間にロザリーの侍女から聞いたことを話した。
「___ですので、ユリセラ国内にはガレンシング公爵子息と婚約者候補を争える者がいないのです」
「そんな……」
俺は言葉を失った。
ガレンシング公の画策で、自身の子息と同等かそれ以上のこの5人を次々と婚約させ、ロザリーの相手の選択肢を奪っていたなんて……
「ロザリー様がガレンシング公爵子息と婚姻を結べば、現国王は、」
「消されるだろうな」
そんな言い方を、と言う顔をオスカーは向けるが、事実だろう。
現国王を失えば、ロザリーが女王となる。彼女なら問題なくこの国を治めるだろう。
だが、ロザリーは独りで大きな悲しみと重責に耐えなければならない。そしてガレンシング家の血を引く子供が成長すれば、命の保証はない。この状況を避ける方法は……
『ユリセラ国内には、ガレンシング公爵子息と婚約者候補を争える者がいないのです』
国内には。
なるほど、オスカーは俺の選択がわかっていたから話すべきか迷っていたんだな。
「オスカー、お前に命を預けてもいいだろうか。悪いが、ロザリーを見捨てられない」
「そう仰ると思いましたが、一度国に持ち帰る事はされませんか?」
「俺がここに来てロザリーと会ったことが知れたら、明日にでもガレンシング側は何か動くかもな。将来、好き勝手に国を治めるようになったら、我が国の脅威になる。それも放っておけない」
「確かに、仰る通りです」
そう納得して、オスカーは姿勢を正した。
「殿下、この命に替えてもお守りいたします。殿下のご判断に従います」
「ありがとう。お前が側にいてくれると心強い」
◇ ・ ◇ ・ ◇
俺は早速、ライアン殿に至急の面会を申し入れた。
思った通り、向こうも待っていたようだ。すぐに広間へと通された。
ライアンの後ろには宰相のクレッグと名乗る者が控えていた。どのような話であっても立ち会うと言う。ロイド侯爵からも、これまで会談してきた相手と聞いていた人物だ。
「ライアン殿、急に申し訳ない。ロザリー殿ともう一度話ができないだろうか」
「わかった。少し待ってくれ」
そう言ってライアンは近くの従者に指示を出した。
元々人払いがされていて、その従者が部屋を出るとライアンと宰相、俺とオスカーの四人だけとなった。
ライアンはこちらを向くと、申し訳なさそうに聞いた。
「レイモンド殿、怒っているだろう?」
「ガレンシング公爵家にか?」
「いや、その企みに気付かず、ロザリーを危険に晒している私に」
「ロザリー殿についてはできる限りのことをしたが、上手くいかなかった、といったところか。それに、今一番命の危険に晒されているのは貴殿だろう?」
ライアンは力無く笑った。
「それは私の力不足だ。そう言うレイモンド殿も危険を承知で我々に力を貸してくれるのか?」
「俺はオルトランドのために動くだけだ」
他国のために動くとは簡単には言えない。本心はそうだとしても。
「ああ、そうだな。とにかくあの子を今のこの状況から出してやりたい」
「そのつもりだ」
そう話しているうちにロザリーが広間に入ってきた。




