従者の内緒話(後編)
「従者の内緒話」はオスカー視点です。
「私、春になったら成人を迎えて社交の場にも出るようになります。レイ様とも正式な場でお会いする機会は増えますが、こんな風にお会いするのは今回が最後なんでしょうね。
今日、お会いできて本当によかったです」
そろそろこの楽しい時間が終わりを迎えていた。
オリビアの話を聞いていなかったら、ロザリー様のこの言葉からは、婚約者候補とされていた公爵子息と幸せそうに社交の場に立つ姿を想像しただろう。
それが隣に立つのが、ガレンシング公爵子息となると話が全く違う。
王位継承順位一位のロザリー様とガレンシング公爵子息が結婚したら、間違いなく現国王は命を狙われるだろう。
ロザリー様を女王とし、その子供に王位を継がせれば、再び自分たちの血筋の王を誕生させることができる―――己の野望のためだけに、人の命をなんだと思っているんだ。
その企みは、ロザリー様を確実に傷つける。それを止めるためには?
ユリセラ国内では、ガレンシング公爵子息に対抗できる婚約者候補が全て潰されてしまっている。それなら…
「オリビア殿、何故ロザリー様はその話を殿下にされないのですか?」
答えはわかっていたが、聞かずにはいられなかった。そしてオリビアも、私がそれに気付いていることをわかっていた。
「もちろん、レイモンド様を我が国の都合で危険に晒したくないという姫様のお心です」
やはり予想通りの答えが返ってきた。
先程のロザリー様の「今日、お会いできて本当によかったです」と言った最後の言葉が、危険を前にした覚悟にも聞こえた。
そんなこととは知らない殿下は、ロザリー様の幸せを願う言葉を掛けている。心からの言葉だとわかる。
お互いの幸せを願うために、何故、命を懸けなければならないのだろうか。
◇ ・ ◇ ・ ◇
お茶の時間を終え、滞在用の部屋へ案内されながら、オリビアの話と、先程までの殿下とロザリー様の和やかな様子を思い出していた。
ロザリー様は、どんなにご自身が傷つこうとも、この先、兄である国王の命が危険になることが予想されても、それを殿下に負わせるような事は避けたいと思ってくださるのか。
ガレンシング公爵子息との婚約が交わされてしまえば、殿下にはなす術がなくなるだろう。殿下は深く傷付かれるだろうが、命を狙われる事はなくなる。それを望まれているのか…
では、殿下は?
この話を聞けば、殿下が取るであろう行動は容易に想像がついた。ご自身の危険は顧みず、ロザリー様のための選択をされるだろう。
殿下の御身の安全を考えれば、オリビアの話は聞かなかったこととしてしまえばいい。冷静に考えれば、少なくとも一度国に持ち帰ってロイド侯爵に相談すべき問題だ。
でも、そんな悠長なことをしている時間はあるのか?相談したって反対しかされないだろう……
「___オスカー?」
殿下の呼び掛けで我に返った。すっかり考え込んで、殿下が話しかけられるのに気付いていなかった。
「あ、申し訳ございません」
「オスカー、大丈夫か?どこか…」
私の体調でも悪いのかと、心配されていた。
ずっと笑うこともなく常に冷静で氷の心を持つと言われた殿下だが、本当は傷つきやすい誰よりも心優しいお方なのだ。だからこそ、長年心を閉ざすことでその傷に耐えてこられたのかもしれない。
それをロザリー様と出会われてから、少しずつ心を開き、相手を想い合いながら過ごされてきた。お互い王子王女のお立場があり自由がない中で、確かに絆を結ばれてきたのだ。
それなのに、ロザリー様が辛い思いをされるのに何もできないことがわかった時、殿下のお心は耐えられるだろうか…
私もどうしたいのか、話を聞いた時点から決まっていたのかもしれない。
心配してくださる殿下の方を向き、答えた。
「いえ、大丈夫です。後程、お話しします」




