従者の内緒話(中編)
「従者の内緒話」はオスカー視点です。
ガレンシング公爵家が今後しようとしている事―――それをオリビアは、従者同士の他愛もない会話をしているかのように伝えるという。
「これもロザリー様からのご指示ですか?」
オリビアはにっこりと笑いながら、小さな声で答えた。
「いえ、姫様からは固く口止めされております」
「では何故?」
「オスカー様、楽しい話です…」
「ああ、申し訳ない」
これまでなかなか掴めなかった問題の真相に迫ろうというのに、楽しそうにとは。思った以上に難しいが、私は努めて穏やかな顔を作った。
それを確かめると、オリビアは話し始めた。
「オスカー様、姫様の婚約者候補のお話はご存知で?」
「ああ、五代程前の国王に遡る血縁の公爵子息とか?」
「ええ、その方が、先日亡くなられました」
そう小さな声で早口で言った。そして、私の返事を待つことなく続けた。
「次の候補は、ガレンシング公爵子息です」
驚いた顔をなんとか抑えると、隣でオリビアがふふっと小さく笑った。楽しげに話しているように見えるだろうか?
その後、オリビアは要点を短く並べていった。従者が会話に夢中になっていては不自然だ。あくまでも主人の横で控えながら情報交換をしている程度の会話で、必要なことを伝えるつもりのようだ。
私はこれまでに集めた情報と照らし合わせながら、彼女の話を繋ぎ合わせていった。
「他の公爵家の子息は?」
「ここ数年で皆、婚約されています」
「皆?」
「不満を持つ貴族達を抑えたい王家側と、その伯爵・子爵家をガレンシング公が繋いだんです」
不満とは、鉱石に関する課税の見直しだろうか。婚姻関係でその不満を抑えることは考えられる。
「新国王を支えるために貴族達の結束が大切だ、とか各家を唆して立て続けに」
なるほど、そうやってロザリー様の婚約者候補を潰していったわけだ。
野望を持つ伯爵、子爵なら、公爵家との繋がりが持てるのであれば、自分の娘を喜んで嫁がせるだろう。
確か公爵家には5、6人の年頃の子息がいたはずだが、婚約の有無まで把握していなかった。
「宰相がその企みに気付いた時には、残りお一人になっていました」
それで慌ててロザリー様の婚約者候補としたのに、毒でも盛られたというわけか。
「王子並みの警護の対象にもしたそうなのですが…」
では、ガレンシング公爵子息がロザリー様と婚約するとどうなるのか…
「……王位か」
オリビアは「さすがオスカー様」と笑った。私は上手く笑えているだろうか?
◇ ・ ◇ ・ ◇
我々の胃が痛くなるような話をよそに、殿下とロザリー様は和やかなご様子だった。
殿下が贈られた髪飾りの話をされているようだ。届いたか心配をされていたから、余計に嬉しそうにしておられる。
「アクアマリンのビーズがレイ様の瞳と同じ色でとても綺麗で気に入っているんです」
そうロザリー様も喜んでくださっている。確かに殿下の瞳は、その石と同じ色をされている。それを作った侍女のソフィも意図して選んだんだろう。
そう思っていると、殿下が「えっ、俺の⁉︎」と振り返った。
………ご自身の瞳の色なんて把握されていなさそうなお方だ。
「はい、殿下の瞳はそのような色です」
と口には出さないが、そう伝わるように頷き殿下には落ち着いていただきたかった。
隣でロザリー様はクスクスと笑っていらっしゃる。その笑い声はいつも不思議に思う。こちらが気まずくなりそうな雰囲気を一瞬で和やかな気持ちに変えてしまうのだから。
「あんなに穏やかな姫様を見るのは久しぶりです。こんな時間が続けばいいのに…」
オリビアはお二人を大切そうに眺めながら呟いた。
そのお二人はお互いの瞳について話している。夢中で見つめているから顔が徐々に近づいている。気が付かれていないんだろうな…
案の定、ハッと気付いて顔を赤らめて姿勢を正していた。私はオリビアと顔を見合わせて笑った。
オリビアが言うように、殿下とロザリー様がお互いに想い合われているのは間違いない。
その想いが実ればいいが、簡単にはいかないお立場をもどかしく思った。




