従者の内緒話(前編)
「従者の内緒話」はオスカー視点です。
王子王女がお茶を楽しんでいる傍で、オスカーは何を見聞きしたのかーーー
ユリセラ王国への訪問に殿下の護衛として私も訪れていた。
到着後、ユリセラ国王との挨拶を済ませると、夕食会の前にお茶の席を用意されていると案内をされた。
明るいホールに入ると、向こうにお茶の準備がされているのが見えた。
そこに繋がる廊下の入り口にはそれぞれ衛兵が立っている。さすがに国王がいるため、警備は念入りに行われているようだった。
庭の方にもなるべく目立たぬよう、でも十分な人数が配置されているのが見えた。少し多いのではと思うくらいに。
――と、横で殿下が立ち止まられた。
その視線の先を見ると…驚いた。ロザリー様だ。
随分と大人びているが、間違いなくユリセラ王国ロザリー王女が我々を待っていた。殿下が固まるのも無理はない。
殿下がどうされるのかと一応見ていたが、すっと右足を引いた。そして回れ右をして来た道を戻られるのか………仕方がない。できるだけ正面からは見えないように、殿下の上着の後ろをがっしりと掴んだ。
すぐに殿下は眉をひそめてこちらを睨んだ。おそらく無意識に足を引かれたのだろう。私は目配せで足を前へ進めていただくよう訴えた。
すると、ホールの開け放たれたガラスの扉の向こうからロザリー様の小さな笑い声が響いてきた。
初めて殿下がロザリー様と対面された頃にも、同じようなやりとりがあり、懐かしささえ覚えた。
殿下もその笑い声で緊張が和らいだのか、ロザリー様の元へ向かい、ようやく再会を果たした。
◇ ・ ◇ ・ ◇
殿下とロザリー様が座られたテーブルの少し後ろに立ち、お二人の楽しげに話される様子を視界に入れながら周りを警戒していた。
温室のように囲われているので、不意な危険はあまりなさそうだが念のために。
それにしても、殿下が女性とこんな和やかに過ごされる時が来るなんて、数年前まで想像できなかった。
ロザリー様が特別で、他のご令嬢とはこのような雰囲気にはならないのだろうが………
リリア様を亡くされた直後は、歳の近いご令嬢と過ごされることを頑なに嫌がられたそうだ。
数年経ってご自身も理解してご令嬢との時間を持つようになると、今度は体が受け付けなかった。熱を出されたり、呼吸困難になったり……私はこの頃から話し相手としてお仕えするようになったが、苦しまれる殿下に何もして差し上げられることもなく、ただただ側にいるだけだった。
徐々にご令嬢と過ごすことはできるようになったが、少しも笑うことなくご令嬢が耐えきれずに早々に終了していたな……と回想していると、隣に立っていた小柄な侍女が話しかけてきた。
「オスカー様でいらっしゃいますか」
「はい、失礼ですが貴女は…」
「はじめまして、私、王女の侍女オリビアと申します」
オリビア……あ、カーラやソフィへの手紙の差出人か?でも、その字は随分と大人のものだったと思う。声をかけてきた侍女はロザリー様と同じかそれより年下かと思われた。
「貴女があの手紙の?」
「はい、文字と私の見た目が繋がりませんか?」
「いや………」
「気になさらないでください。私、字だけは大人びているんです」
そう少し笑って話を続けた。
「誰が書いたかわからないことを狙って書いたのです。何人もいる侍女の一人が書いた取るに足らない手紙と思われればすり抜けられるかも、と」
「でも咎められれば貴女に危険が及ぶのでは?」
「それは構いません。………私の姉はロザリー様の侍女として同行したあの日、何者かに襲われ命を落としました。姉が命をかけてお守りした姫様を私もお守りしたいのです」
「そう…だったのですね」
「オスカー様、姫様を助けていただき、本当に、本当にありがとうございました。襲撃の一報を受けた時、姫様も絶望的だと言われていましたので…」
その時を思い出して、オリビアは言葉を詰まらせた。
「ロザリー様をお助けできて、我々も本当によかったと思っています。我が王子もロザリー様との触れ合う中で、救われたことも多いんですよ」
「………あの、オスカー様」
「どうかされましたか?」
「レイモンド様と姫様はお互いに想い合っていると思うのですが、オスカー様はどう思われますか?」
「どう、とは?」
お互いに立場のあるお二人だ。想い合っていてもどうにもならないことも多い。ご自身が歯痒い思いをされているのに、私などが勝手なことを言えない…
そう考えながら言葉を探していると、オリビアがそれを察したようだった。そして声を抑えて質問を変えた。
「では、この後の私の話をただ聞いてくださいますか?」
「どのような?」
「楽しい話をしているように振る舞ってくださいね」
「………?」
「ガレンシング公爵家が今後しようとしている事の話です」
「えっ」と声を上げそうになったのをなんとか堪えた。オリビアも「楽しい話です」と笑った。
「わかった、その話を聞こう」
私も笑顔を作った。




