アクアマリンのビーズ
「そういえばロザリー殿、この一年程、手紙が届かなくなってしまったようだが、何かあったのだろうか?」
ロザリーの顔が曇った。
「やはり届かなかったんですね。王女が他国と連絡を取るものではないと言う者がいて……その後に送った手紙にレイ様からのお返事がなかったので、止められてしまったんだと」
「そうか。貴女が刺繍したハンカチを送ってくれた後、ソフィから髪飾りを送ったと思うのだが、それは…」
「髪飾りは受け取りましたよ。ほら」
とロザリーは結った髪に着けた髪飾りを嬉しそうに見せてくれた。
「ソフィへも手紙を出したのですが、それも届かなかったんですね……。ソフィにはお礼を伝えてくださいますか?」
「ああ、伝えよう。貴女が着けてくれていると知ったら喜ぶだろう」
俺がそう言うと、ロザリーは微笑んでその髪飾りにそっと触れた。
淡い色の髪飾りはロザリーの緩く波打つ髪によく合い、優しい印象を作っていた。艶やかなシルクのリボンにソフィが手作りしたという同じ色の造花が飾られ、透き通った水色のビーズが間を埋めるように縫い付けられていた。
小さなビーズは陽の光を受けるとキラキラと輝いて綺麗だった。
「皆とお揃いだなんて嬉しくって」
―――やはりロザリーは、ソフィ達とのお揃いを喜んでくれていた。よかった。
「…それにアクアマリンのビーズがレイ様の瞳と同じ色でとても綺麗で気に入っているんです」
「えっ、俺の⁉︎」
確かに青っぽい瞳なのだが、こんな澄んだ色だろうか?
なんだか急に恥ずかしくなり、少し離れて後ろに立つオスカーに助けを求めるように振り返ってしまった。
オスカーは静かに頷き、「瞳はそのような色です。落ち着いてください」と無言なのに返事が返ってきたようだった。
「……そ、そうか」
ロザリーの方に向き直り、努めて落ち着いて返事をしてみたが、ロザリーがクスクスと笑っていた。
「レイ様はいつも私にお話ししてくださる時は、真っ直ぐに目を見て真剣に向き合ってくださっていたでしょう。この色を見ると、その時のことを思い出して前向きになれるんです」
ロザリーが俺の目を覗き込むようにこちらを見るのにつられて、俺もロザリーの瞳を見つめた。大きなエメラルドグリーンの瞳に吸い込まれそうだった。
「貴女の瞳の方が綺麗だと思う…」
思ったままの言葉が口を衝いて出た。ハッと気がつくと思いのほか顔が近く、お互いに顔を赤らめて姿勢を正した。
ロザリーは少し気持ちを落ち着けるように深く息を吸ってから、再び話し始めた。
「私、春になったら成人を迎えて社交の場にも出るようになります。レイ様とも正式な場でお会いする機会は増えますが、こんな風にお会いするのは今回が最後なんでしょうね。
今日、お会いできて本当によかったです」
綺麗な瞳を細めて優しく微笑むロザリーは本当に美しかった。
ロザリーに見惚れながら、俺はユリセラ国内の公爵家の関係図を思い出していた。
現国王から五代前から繋がる公爵家の子息がロザリーの婚約者候補だろうと、以前ロイド侯爵が言っていた。ロザリーが社交の場に出るのと同時に婚約が発表されるだろう、と。
集められた資料からも、ロザリーより三つ年上のその男は、公爵家の次男で現国王の側で働き、剣の腕も立つ。性格も温厚なのだというのだから、きっとロザリーを大切に幸せにできる男なんだろう。
俺も彼くらいの自由がある立場だったら、もう少しロザリーと歳が近ければ、などとくだらないことをチラッと考えたりもしたが、ロザリーが幸せになるのであれば、それで十分だと思った。
「ロザリー、こんなふうに兄のように会えるのは最後になるのは寂しいが、貴女の幸せな様子を正式な場で見られることを心から楽しみにしているよ」
俺がそういうと、ロザリーはまた優しく微笑んだ。その瞳は少し潤んだように見えた。
◇ ・ ◇ ・ ◇
ロザリーとのお茶の時間はあっという間に終わってしまい、俺はオスカーと部屋へと案内されていた。
「ロザリー殿が来ているとは本当に驚いたな…」
「………」
呟いた俺の言葉に、オスカーの反応はなかった。何か考え込んでいるようだった。
「オスカー?」
「あ、申し訳ございません」
ハッと我に返り、俺に謝った。こんなことは珍しい。
「オスカー、大丈夫か?どこか…」
「いえ、大丈夫です。後程、お話しします」
そう言って気持ちを切り替えたように、オスカーはいつも通りの様子に戻った。
このお茶の時間の間に何があったのだろうか……




