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氷と花の  作者: 千雪はな
第4章 手紙
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担当の交代

「次の交渉時には我が国の責任者のケラーが参ります。できれば次回、条約締結できればと思いますので、貴国もロイド殿にご出席いただけないでしょうか」


前回から二ヶ月後の交渉の最後に、レキストリア帝国の担当者からそう言われた。


「現在のこの件の責任者は私だが?」


「ええ、存じ上げております。しかしケラーとしましては、当初から交渉を担当されていたロイド殿とお話しさせていただきたいと申しております」


「…そうか。では、その件は一度持ち帰って確認させていただけるか」


「はい、よろしくお願いいたします」


 ◇ ・ ◇ ・ ◇


帰りの馬車の中ではフレディが荒れていた。と言っても怒鳴り散らす訳ではなく、物凄い機嫌の悪い空気を(まと)っていた。


「何のつもりでしょうか、あの失礼な要求は」


普段は軽い感じで話す分、低く落ち着いた口調が余計に怒っていることが伝わってきた。


「何故お前がそんなに怒ってるんだ?」


「殿下は腹が立たないんですか?」


「言われた時は俺が責任者だ、と少し腹が立ったがな…」


「少しどころの話では収まりませんよ」


怒りをどこにもぶつけられず、フレディの静かな怒りで馬車の中が凍り付きそうだった。


俺の為に怒ってくれているのは嬉しいが、こんな馬車の中ではレキストリアには一つも伝わらず、怖い思いをしているのは俺だけじゃないか……思わず笑いが漏れてしまった。


「笑いごとではございません」


しまった。余計に怒られた。


「すまない。お前がそんなに怒ってくれるから、俺の怒りはどこかへいってしまったと思ってな。


まあ、締結まで俺が持っていければよかったんだろうが、それは今の俺には力不足なんだろう。


締結直前の合意までは責任を持って纏められたから、その点は誇りに思って良いだろうか?」


「それは勿論でございます…」


「次は最後まで締められるように、お前が悔しい思いをしなくても良いように努力する。そんな思いにさせてすまなかった」


「いえ、殿下が謝られることではございません。私こそ、感情を抑えられず、申し訳ございませんでした」


それ以降、フレディは窓の外を眺めたまま口を開かなかった。


 ◇ ・ ◇ ・ ◇


城に戻り、ロイド侯爵に本日の交渉について報告した。


フレディはロイド侯爵の前ではさっきの怒りは一つも出さず、いつも通りの様子だった。


俺も落ち着いて報告を終えられるだろうか…いつも感情を表に出して、ロイド侯爵に笑われるんだ。



ロイド侯爵に、次回の交渉の締結の為の出席について尋ねると、しばらく腕を組んで考えた末、俺に向かって言った。


「かしこまりました。レキストリアの最終交渉は私が出席します。三ヶ月後なんですね?」


「はい、先方の希望は」


「でしたら、ユリセラとの会談は殿下にお願いできますか?ちょうど三ヶ月後の予定なんです」


「え⁈」


「あ、残念ながらロザリー様のいらっしゃる王城ではなく、北部のキサニーチェ宮殿で行われますが…」


残念ながらって…早速、感情が抑えられずあっさり読まれている。


「俺が行っても良いのか?」


「はい、ユリセラとは現在は交渉が必要な問題はございませんので安心していただいて大丈夫です」


「では何故、会談を続けているのですか?」


「ユリセラ側は、新しい国王と我が国がいい関係で後ろ盾にもなり得ることを国内にアピールしたいのでしょう。


我が国は、レキストリアへのガレンシング公爵家の影響を探り、我が国への脅威となるなら、それを断ちたいと思っている。


両者それぞれの思惑があって、定期的に会談を持つことになっている」


「なるほど」


「ロザリー王女のご様子も伺いたいですしね」


「な……っ」


そんなに直接的に言わなくてもいいじゃないか。そんな落ち着かない俺を見てロイド侯爵は笑った。


「ロザリー様のご様子を伺いたいのは、殿下だけではありませんよ。


この城でロザリー様に仕えたものは勿論、その話を聞いた者や帰国前のご様子を見た者など、ロザリー様のことを気に掛けている者は多いんですよ。


市井の者まで我が国の王子がお助けした姫様として人気もあるのだとか」


「そうなのか⁈」


それは驚いた。でもロザリーの優しさや温かさが広くこの国に伝わっていることは、嬉しかった。


「ですから殿下、ユリセラに行かれたら、しっかりロザリー様のご様子を伺ってきてください。私が尋ねるよりも、教えてもらえるかもしれませんから」


「俺に教えてくれるだろうか…?」


「それは殿下が頑張ってください」


急な展開にまだ実感が湧いていないが、ロザリーのことを自分で確かめることができる。


レキストリアとの交渉から外されて腹が立っていたことなんて、どうでもよくなっていた。

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