ユリセラ王国の現状
交渉を終えて城に戻っても、ロザリーの手紙のことが頭から離れなかった。
ちょうど部屋の花を替えていたソフィに声を掛けた。
「ソフィ、先日聞いたロザリー殿からの手紙のことだが、貴女から送ってもらった髪飾りへの返信もなかったのだろうか」
「えっ、はい。殿下からの贈り物とお分かりになると思いましたので、それは殿下へお返事されているのかと……。
先日聞かれたのは、その後のお手紙についてかと思っておりました」
ロザリーからの刺繍を施したハンカチのお礼にソフィが用意してくれたのは、淡い水色のリボンと造花で作った髪飾りだった。ロザリーとその侍女にと二つ、ロザリーの方には小さな透き通るビーズとレースで少しだけ華やかに飾り付けられていた。
別に返信が欲しくて贈ったわけではないが、俺が知る限りのロザリーは、ここで仕えたソフィ達とお揃いの髪飾りを受け取ったらきっと喜び、その気持ちを伝えてくれる―そんな姿が容易に想像できるような心優しい少女だった。
ソフィも「ロザリー様から何もお返事ないなんて…」と心配そうに考え込んでいた。
やはり何かおかしい………
◇ ・ ◇ ・ ◇
数日後、ユリセラから戻ったばかりのロイド侯爵を呼び止めた。
「ロイド殿、少しよろしいでしょうか」
「はい、殿下。ユリセラのことでしょうか」
「ああ、新しくわかったことがあれば、教えてもらえないだろうか」
「ユリセラとの会談は主に、前国王の側近でもあった宰相と行われることは以前お伝えしたと思います。今もそれは変わりませんが、あの後の会談で現国王のライアン様が同席されました」
「ライアン殿と話されたのか。どんな印象だろうか」
「我が国との交渉は宰相殿に任せているという立場で、会談の場では同席しているという感じでしたが、国政については国王が執り行って、宰相が補佐していると、その関係は非常に良いように見受けられました」
少し間を置き、少し表情を固くしてロイド侯爵が続けた。
「しかし…」
「何か問題でも?」
「殿下が心配されていたガレンシング公爵家については、やはり問題があるようですが、以前の会談での内容以上は我々には話すつもりはないようです」
「そうだな、他国に明かすことではないか」
そう簡単にガレンシング家のことがわかるとは思っていないが、あまりの情報のなさに、腕を組み床を見つめてため息を吐いてしまった。
「あと、ロザリー様については……」
「えっ⁉︎」
パッと顔を上げた俺を見て、ロイド侯爵が吹き出した。
「ははは、殿下、そこで素知らぬ顔ができないと駄目ですよ」
「わ、わかっている!」
耳まで熱くなった。
「そのご心配されているロザリー様ですが、話を聞く限りは無事に過ごされていると思います」
ロイド侯爵に気持ちを完全に見透かされているが、そこは触れないでおく。
「隠しているとかはないのか?」
「ライアン様は非常に穏やかなご様子でした。妹君の身に何かあったのであれば、さすがにあの態度ではいられないと私は見ています」
「そうか。帰国したばかりのところ時間をいただいて申し訳なかった」
「いえ、とんでもございません。次回のユリセラとの会談は五ヶ月後の予定ですが、その時にまたロザリー様のことを伺って報告いたします」
「ああ、感謝する」
ロイド侯爵は軽く会釈して部屋を出ていった。侯爵にとっては、俺なんかはまだまだ子供なんだろうな……妙に温かく身守られた感じに少しだけ凹んだ。




