救出(前編)
残酷な描写が一部あります。苦手な方はご注意ください。
深い雪に足を取られ、雪の中の岩や地面の窪みに躓きながら、ようやく森まで辿り着いた。
目の前には裾をフリルで縁取られた淡いピンクのドレスを着た少女が倒れていた。
その横に倒れ込むように膝をつき、ゼイゼイと乱れる呼吸を無理やり飲み込む。そして革の手袋を外し、少女の顔に掛かっている降り積もった雪と薄い茶色の髪をそっとはらった。
指先に触れた頬が驚くほど冷たく、血の気の全く感じられない人形のような顔に心臓が締め付けられた。
少女の鼻先に手の甲をかざす。
―――お願いだ。生きていてくれ…
自分の乱れた呼吸と心臓の音が煩い。ぎゅっと目を閉じ、手の甲の感覚に集中する。
―――この子は、どうかどうか助かってくれ…
「………!」
祈りが通じたかのように、本当に微かで今にも消え入りそうだが、静かな呼吸を感じた。
「ああ、よかった…」
ほっと息を吐くとともに少女の怪我の程度が気になった。
左肩は真っ赤に血で染まっていた。少女のコートを開け、自分の首元のタイで止血する。
口元には吐血の跡が見られ、無理に動かさない方がいいかもしれない…そう考えて自分のマントを掛け、そっと口元の血を拭った。
「___殿下!勝手に動いてもらっては困ります!」
オスカーの声で現実に引き戻された感覚がした。
「…あ……ああ」
「せめて私を連れて動いてください!」
「…すまなかった」
やや呆然としている俺の横で、オスカーが連れてきた団員に救護用のソリを引いてくるよう指示をしていた。
そして俺の横へ来て小さく声をかけてきた。
「大丈夫ですか?」
「……大丈夫だ」
俺が思い出していたこと、感じていた恐れを察しているであろう問い掛けに、緊張が解けていった。