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氷と花の  作者: 千雪はな
第4章 手紙
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届かない手紙

レキストリア帝国との交渉は、引継ぎをしてから三回目となっていた。自分がレキストリアの担当者と対峙するのは、ロイド侯爵の横に付いていた時と比べ、想像以上に重圧を感じた。


「では、レイモンド様、今回の対象品目の件につきましては、ご再考いただきますようお願いいたします」


レキストリアの交渉担当者が机の上の書類をまとめ終わって席を立った。


「ああ、そちらも関税率についてはこれ以上の譲歩はできないことについてケラー殿の了承を得ていただきたい。その上での対象品目の追加を検討する」


「はい、かしこまりました」


ケラー殿とはレキストリアの将軍で、この交渉の責任者だ。ただ、交渉の場に出てくることは滅多になく、毎回交渉時に上がった条件を国に持ち帰って、次回、再交渉する。


それを二、三ヶ月に一度のペースで繰り返しているので、少しずつは(まと)まっているが、条約締結までにはまだ時間がかかりそうだった。


 ◇ ・ ◇ ・ ◇


「お疲れ様です、殿下。今回もなかなか向こうは折れてくれませんでしたね」


「ああ、難しいな……。でも前回提示した条件は、ほぼこちらの希望で合意できてよかった」


「そうですね。それにしても時間が掛かりますね。前にレキストリアがシビルドへ攻め入ろうとしたすぐ後から交渉を始めたので、もう二年以上経ってるんじゃないですか?


交渉を始めたのって、ちょうどロザリー様が王城にいらした頃ですよね」


「二年以上、そんなに経つのか。………ん…?」


「どうかしましたか?」


「いや、ロザリーからしばらく手紙がないと思ってな…」


「どれくらい来てないんですか?」


以前、ロイド侯爵からユリセラの話を聞いた時に、ロザリーから手紙を送ることは許されていると聞いて、安心して少し忘れていた。


引き継いだ交渉のことで頭がいっぱいで、時が経つのを忘れるほど必死にやってきたというのもあるのだが…


「半年……いや、それ以上か?前回も遅れていたし、何か忙しかったりするのかもな」


不安を感じる自分に、何事もないはずだと言い聞かせるように(つぶや)いた。


 ◇ ・ ◇ ・ ◇


レキストリア側が望む条件に対する国内の調整や、まだ合意に至っていない案件の準備に追われる間に更に三ヶ月が経ち、あっという間に次の交渉を迎えていた。


今回も、条約締結へ向けて少しの前進し、残されたいくつかの課題があるものの、事前に想定していた内容で終了することができた。あと数回の交渉で締結まで持っていけるのではないかと目処が立ってきた。


レキストリアのジーラナイトの輸入量も減っていた。気を緩めることはできないが、レキストリアの脅威は以前より低くなっていることを感じていた。



交渉がひと段落して、ふとロザリーの手紙のことが気になった。俺にも、カーラやソフィにも手紙は届いていなかった。


―――何かあったんだろうか…


俺へ手紙を書く必要がないくらい、側にいる者達や触れ合う民と充実した日々を送っているならいいんだが。


まだガレンシング公爵家について分からないことが多い中で便りが来なくなったことに、不安を拭えないでいた。


「殿下、またロザリー様のことで何か心配事でも?」


交渉を終え、馬車に乗り込んだところでフレディが声を掛けてきた。交渉の部屋からここまで一人で考え込んでしまっていた。


「なぜロザリーのことだと?」


「交渉は思ったより上手くいったのに暗い顔されているので、それなら…と。まだお手紙が届かないんですか?」


「ああ……。すぐに気持ちが顔に出るなんて、まだまだだな…」


自嘲(じちょう)する俺を見て、フレディも困ったように笑った。


「ロザリー様のこと、探ってみましょうか?」


「いや、やめておく。万が一にもロイド殿の邪魔になっては困る」


「ロイド侯爵は何かご存じでしょうか…?」


無意識に手は上着の胸元、ロザリーが刺繍したハンカチを入れた上着の内ポケットの上を押さえていた。不安からか、鼓動が早い。


何か些細なことでも知りたいと思う一方、何事もなく何の情報もなければいいのに…と複雑な気持ちに支配された。


その気持ちを落ち着かせるようため息を吐き、車窓を流れる景色をぼんやりと眺めていた。

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