ガレンシング公爵家
レキストリアとの交渉を引き継いでしばらく経ったある日、ロイド侯爵から俺とフレディが呼ばれた。
俺からつい先日行われた交渉の報告をし、次回の課題を確認した。
「初回としては満足できる内容だと思いますよ」
そうロイド侯爵に言ってもらうことができ、少し安心した。
その後、レキストリアについていくつか意見を交わしてひと段落したところで、聞きたかったユリセラ王国について、ロイド侯爵に質問をすることにした。
「ロイド殿、ユリセラに行かれたと思うが、ガレンシング侯爵家について何かわかったんでしょうか?」
「そうですね、公爵家に接触できる訳ではないので、国王側からの情報となりますが…」
「わかっていることだけで構わない。教えてほしい」
「はい。ユリセラ側は宰相のクレッグ侯爵が我が国との窓口となっています。
クレッグ殿の話からは、国王側もガレンシング公爵家の裏で行なっていることも大体は把握しているようです。
薬草については取り扱いの規則を厳しくしたり、ジーラナイトなどの鉱物は課税についての見直しと称して採掘量を新たに調査する仕組みを作って、それらの悪用を防ぐ策を講じているとのことです」
「なるほど…それで、ガレンシング家の反応は?」
「毒となる薬草を溜め込んでいることも、隣国への鉱石の輸出量を誤魔化していることも表には出せませんので、国の施策には表立っては不服は申し立てていないようですが…」
「裏で何かあるのか?」
「その施策に反発する者達をまとめて家同士を繋いでいるようだと。
施策により公爵家の企みを止める一方、反対勢力を大きくしないように注視しているところだということです」
「その繋がりを持った者達は何を?ガレンシング公を国王に据えたいのか?」
「目的まではまだわからないようです。ガレンシング家以外は、王位継承についての異議はないようですので」
「そうか……」
「そういえば、ロザリー様から我々オルトランド側に情報が伝わったことについては、クレッグ殿も苦笑されていました」
「あの情報をロザリー殿はどうやって知ったのかがわかったのか?」
「はい、国王である兄上様もクレッグ殿も、ロザリー様に危険が及ばないようにとお教えしなかったのですが…」
それはそうだろう。
「ロザリー様が城内で国王の側近やクレッグ殿の部下に聞いて回ったようです」
「側近達が話したのか、ロザリーに?」
「ロザリー様の聞き出し方がとてもお上手だったようで、クレッグ殿が気づいて部下達を止めた時にはかなりの情報が漏れていたようです…」
ロザリーのあの笑顔で無邪気に聞かれたら、うっかり話してしまうのもわからなくもないが―――それでも話したらダメだろう。
「かなりの、って薬草と鉱石以外もってことか?」
「そのようです。その中で、我が国に脅威となるであろう二つだけを殿下にお伝えされたようですね」
「そういうことだったのか」
「ええ、『困った姫様です』とクレッグ殿は笑っていたが…」
笑いごとじゃない。ガレンシング公爵家の都合の悪いことを知っていれば、身の危険だって考えられるのに。
「では今後、ロザリー殿からこちらへ手紙をくれることはないということだろうか」
「いえ、ロザリー様の気晴らしになるようですので、お手紙については止められないようですよ。
ただ、『この国の内情を伝えるのはおやめください、とお願いしましたら、“伝えたいことは向こうに伝わったから、こんなことはもうないと思うわ”と仰られましてね、本当に困った姫様です』とクレッグ殿は大笑いしていましたね」
ロイド侯爵がクレッグ侯に同情するような遠い目をしていた。何かロイド侯爵も同情するようなことあるのだろうか?俺が心配を掛けているのか?心当たりはないが…
まあそんなことよりも、前回の俺の手紙でロザリーに伝えたかったこと―もう危険を冒してまで俺に情報を送ってくれなくて大丈夫だ、ということが伝わっていてよかった。
ひとつだけ心配事がなくなってほっとした。




