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氷と花の  作者: 千雪はな
第4章 手紙
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レキストリア帝国との交渉

ロイド侯爵からレキストリア帝国と現在進めている交渉を引き継ぐことになった。


これまでロイド侯爵に付いて学んできたのはこの対レキストリアの交渉であり、いずれは俺が引き継ぐ予定ではあった。


今回のユリセラ王国のジーラナイト不正輸出のために、引継ぎが予定より少し早まったが。



そしてロイド侯爵から引継ぎをするよう言われて数日後の今日、新たな交渉の担当者が集められた。ロイド侯爵と側近数名が抜けたくらいで、顔ぶれはそれほど変わらないが、新しく加わる者もいるので、フレディが説明をしていた。


「…以上がレキストリア側の交渉担当者です。次に交渉について……」


会議用の大きな机の上に広げられた地図とこれまでの交渉の資料を使って説明が続く。


レキストリア帝国は、様々な国に囲まれた国だ。その国々の交易の拠点として栄えてきた。


ただ、唯一の港が北の海に面してあるのだが、長い冬の間は氷に閉ざされ使えない。そのため、レキストリアは不凍港を手に入れるため、過去に何度か隣国への侵略を試みていた。


シルビドの砦付近での我が国とレキストリアとの衝突も、近くの港ミラルベイを狙った侵攻だ。形勢は我が国の方が優勢だが、当然、侵攻が無くなればいい。そのための交渉を重ねてきた。


「…現状、ミラルベイをレキストリアが使えるようにすることで、友好条約を結ぶ方向で交渉が進んでいる」


そう言ってフレディは細かな数字が書かれた資料を机の真ん中に並べた。


「ここに書かれている港の使用料や、関税率などの細かい条件でまだ合意に至っていないので、今後はこういった点の話を詰めていくことになる」


いくつか出た質問にフレディが答え、次のレキストリアとの交渉に向けて準備を行うことを確認して、今日の打ち合わせは終了した。


 ◇ ・ ◇ ・ ◇


皆が退出して静かになった広い部屋に俺とフレディの二人だけが残っていた。


資料を改めて確認しながら棚へ戻していく。最後の一部をパラパラと(めく)り、我が国の提案する数字と、レキストリア側の要求額を見比べた。


―――この交渉が成功すれば、レキストリアは武器を量産する必要がなくなるかもしれない。ジーラナイトを買い付ける量が減れば、ユリセラのガレンシング公爵家へ渡る金も……


「殿下、顔が怖いです」


机を挟んだ向こうでフレディがわざとらしくしかめっ面をしていた。


「なんだ、その顔は」


「今の殿下の顔です。眉間の皺がすごくて、そんな顔をしてたら、ロザリー様に怖がられますよ」


そこにロザリーを持ち出すな。俺は顔を背けた。


フレディはそんな俺を見て笑った。


「本当に殿下は表情豊かになられましたよね。ついこの間までさっきのしかめっ面しかしてなかったのに」


「他でも言われるが、俺の表情はそんなに変わったのか?」


「はい、もう面白いほどに」


「おも……っ」


面白がられているのか⁈


困惑する俺を見てフレディはさらに笑った。涙まで出ているようだ。


「ひははは…、すみません。笑いすぎですね」


絶対、すまないなんて思っていないだろう。睨んだ俺を見て楽しそうにフレディは「ふぅ」と一息ついて、


「殿下が気持ちを表してくださって、側にいる我々も嬉しく思っています」


「本当か?」


「はい、とても。ただ、交渉のためには、以前のように感情を表に出さない(すべ)も思い出してくださいね」


いや、以前は意識して感情を隠していたわけではない。


しかし、交渉のためには感情を表に出さないことも身に付けなければ。そう思うと、また眉間に皺が寄りそうだった。

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