証拠と駆け引き
フレディが武器の材料の一つとなる鉱石ジーラナイトのユリセラ国内の採掘量について不審な点に気づいてから二ヶ月が経った。
「まだ証拠として十分とは言えないかもしれないですが」
そう言ってデータの束を持ってきた。
ガレンシング公爵家が公表している採掘量とそこからの流通量、対してレキストリア帝国側の公式な輸入量―――表向きの数字には矛盾はない。
そして、ガレンシング領内の採掘場で実際に採れた量と、レキストリア帝国内で廃棄された輸入量のデータ。
「レキストリアでは、ガレンシング領よりはデータの隠蔽が徹底していないだろうと読んだのですが、当たりでしたね」
フレディが大きな机の上に、比較しやすいようにデータを並べていく。
そこへロイド侯爵がやってきた。
「アルフレッド、見せたい資料があるというのはこれのことか?」
「はい、殿下のご指示の下、調査しました結果、ユリセラからレキストリアへジーラナイトが不正に輸出されていることが分かりました」
データを見比べていたロイド侯爵の顔が険しくなっていった。
「ユリセラ側はガレンシング公爵家か。よく掴んだな」
「はい、今回直接データが取れる伝手ができましたので」
「そうか、証拠として突きつけられんが十分だ。ここは引いていい」
俺は思わず口を挟んだ。
「待ってくれ。ロイド殿、このままデータを取れば動かぬ証拠となるのでは」
慌てる俺に対してロイド侯爵は落ち着いていた。
「ですが、これ以上続けると相手に諜報活動が発覚する危険の方が高くなります」
「そんな……っ」
データを揃えたらガレンシング家の企みの一部でも崩せるんじゃないかと思っていた俺は反論したくなった。
「殿下、このデータを揃えたところで何を止められるとお考えですか?」
「何、って……そうか、このままデータを集めても、ガレンシング公爵家が不正な輸出で私腹を肥やしていることが確定するだけで、その金を使って何を企んでいるかは見えてこない、ということか」
「その通りです。ですから、ガレンシング領での調査は一旦引きます」
「ああ、…理解した」
「この後はデータではなく、実際にユリセラ側と顔を合わせて、国内で何が起こっているのかを見つけ出さないといけないでしょうね。
まずは誰と話をするかから見つけなければなりません」
「それには俺も同席させてもらえるんだろうか?」
「いえ、殿下はお連れできません」
「なぜだ?」
ロザリーに関わる話をするのであれば、同席したいと思った。それに対して俺は何もできないのか?握っていた拳にさらに力が入った。
そんな俺を見て、ロイド侯爵は窘めるように言った。
「殿下がそれほどユリセラの王女様を大切に思われているからですよ。王女様に不利益な話を出されて、殿下は眉ひとつ動かさずにいられますか?」
「………」
ロイド侯爵が言わんとすることを理解した。自分に不利なことでも、許せないことでも表に出さない精神力―――今の俺は感情を表に出して、駆け引きをぶち壊すことが容易に想像できてため息が出た。
「このユリセラ王国との会談は私が当たります」
「そうか、ロイド殿が出向かれるのであれば、俺はかえって足手まといだな」
「そうは言っておりません。殿下に出ていただく機会も必ず来ます。その時のために準備はしておいてください」
今日この場だけでも自分の考えの甘さに凹んでいるのに、俺の出番が来ることは本当にあるのだろうか。
「その代わり、」とロイド侯爵がこの部屋に入ってきた時から手にしていたファイルを俺に手渡しながら言った。
「レキストリア帝国との今後の交渉をアルフレッドと共に引き継いでいただきます」




