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氷と花の  作者: 千雪はな
第4章 手紙
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今、できること

フレディが退出し、どっと疲れが襲ってきた。椅子の背もたれに寄り掛かり天井を仰いだ。


はぁぁぁ………ため息が出た。王位を覆そうなんて、どうしてそんなことに。


俺の勉強不足と言われればそれまでだが、隣国については対オルトランドに関することしか興味を持ってこなかった。


ユリセラ国内の王位の争いなんて、しかも数代前に遡っての問題なんて影響を受けると思ったこともなかった。


でも、ロザリーはその渦中にいる。


国王となった兄の身を案じているだろうし、ロザリー自身にも危険が及ぶかもしれない不安を抱えているだろう。


フレディに、この国として何かできないだろうかと漏らしたが即答された。


―――「今の状況では、動きたくても国は動けませんよ。ただの王子の私情ですから」


「じゃあ、どうしたらいいんだ。今まさに危険が迫っているかもしれないのに」


「今はとにかく確固たる証拠を集めることです。そして、それが我が国への脅威となると訴えられるよう準備をすることです。


ロザリー様に差し迫っている危険については、その準備が間に合うことを祈るしかないですが………」



フレディの言うことはもっともだ。一日でも早く証拠を揃え、その時にどう動くのが効果的か。


今の自分に対して無力さを強く感じるが、諦めたくない。ロザリーと約束した離れてもできることを見つけ出すんだ。


どうかどうかそれがロザリーを守るために間に合うようにと、今は祈ることしかできないのが本当に歯痒いが…



俺は、もう一つため息を吐いて、机の上のロザリーからの手紙をもう一度広げた。


まずは前回の手紙から少し期間が空いたことを謝る文から始まっていた。遅れたと言っても一ヶ月程だが。


そして最近は侍女と一緒に刺繍を楽しんでいると。『ソフィが仕立ててくれた若草色のワンピースに施してあった刺繍が素敵だったので、私も少しでも上手になりたくて』と手紙には書いてあった。


ソフィは、ロザリーの滞在中に歳の近い侍女の一人として仕えてもらっていた。裁縫が得意で、ロザリーの服の仕立て直しをしていた。


しかし、ロザリーはここにいる間、若草色のワンピースを着たことはなかく、前の勿忘草の話と同様、ユリセラでロザリーに仕えている侍女のオリビアから若草色の手紙がソフィに届いていた。そこにジーラナイトのヒントが記されていた。



ロザリーの手紙は近況を知らせるだけの他愛もない内容のものだった。おそらくガレンシング公爵家側に手紙を見られたとしても、怪しまれることがないように注意を払ってのことだろう。


少し回りくどいだけの暗号と呼ぶには幼稚な方法だが、直接ロザリーが伝えてくるよりは危険は少ないはずだ。


今回の手紙もジーラナイトについて伝えるために嘘を織り交ぜてあるが、刺繍を楽しんでいるのは本当のようだ。手紙と一緒に雪の結晶とイニシャルの「R」を刺繍したハンカチが届いた。


雪の結晶は緑から青へとグラデーションするように糸を何色か変えて刺してあり、オーロラを連想させる綺麗なものだった。


「まぁ、素敵な刺繍ですね。ロザリー様のですか?」


お茶を運んできたソフィが声を上げた。


普段はソフィの方から俺に話しかけてくることは滅多にないが、ロザリーのことはやはり気になるようだ。


(がく)にでも入れて飾っておこうか」と俺が言うとソフィは、


「ハンカチに願いを込めて刺繍をしてお守りとして渡す風習がユリセラ王国にあると聞いたことがあります。ですので、身に付けられるのが良いのではないかと思います」


と言うので、もうお守りにしか見えなくなった。ロザリーにはそのつもりはなく、ただ純粋に刺繍しただけだとしても。



それにしても、気の利いた返信の上に、ハンカチへの礼という難題が降りかかってきた。


ロザリーに安心感を与えられて、できれば喜んでもらえるもの………


「殿下、何かお困りですか?」


顔に出ていたらしい。

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