疑惑の裏側
「殿下、デルフォレインの件、少し見えてきましたよ」
ある日の執務を終えて自室へと戻ろうと廊下を歩いているところを、フレディが追いかけてきた。
「ああ、ご苦労」
通常の執務とは別に調査をしているため、どうしても時間がかかる。ロザリーから勿忘草の色の手紙で情報を得てから、5ヶ月程が経っていた。
フレディから手渡された書類にはユリセラが輸入したデルフォレインの国内の流通量が示されていた。
そのデータからわかるのは、ユリセラの王城に納められるデルフォレインは我が国同様わずかな量だった。増やした分のほとんどは輸入した領内に留まっている…
「どういうことだ?」
「デルフォレインの輸入を担っているのが、ユリセラ王国の北東地域を治めるガレンシング公爵家なんですが、この一族には以前からあまり良い噂がなかったので、少し調べていたんです」
「その噂とは?」
「ガレンシング公爵家が王位を覆そうとしていると言われているそうです」
「何故?」
「内政問題としてあまり表には出されないのですが、公爵家は王位継承に問題があると考えてるようで…」
「王位継承で揉めていて、それにこの毒が使われているのか?」
「それが証拠がないので、誰も追求できないって言われているんですよね」
証拠が簡単に出てくるなら、既に糾弾されているだろう。
「なぜガレンシング公爵家は、そのようにユリセラ王国の利益にならないような振る舞いを……」
その疑問を口にしたところで俺の部屋に着いた。フレディは「こちらをご覧ください」と、手に持っていた書類の一枚を机の上に置いた。
そこには家系図が書かれていた。隣国の歴史として何度か目にしたことのあものだった。
「ガレンシング公爵家現当主の祖父は第20代ユリセラ国王だったんです」
家系図を指差しながらフレディは説明を続けた。
「その国王は病弱で若くして亡くなったため、その弟アルバートが21代国王となりました」
「そうだな。その21代目が現国王とロザリーの曽祖父ということか。20代目に息子がいるが…幼すぎて弟のアルバート殿が継承したんだろうか?」
ガレンシング公爵家の疑惑を持ってみると、その家系図が今までとは少し違う物に見えてきた。これまで気にしていなかったことに疑問が湧いた。
「いえ、20代目の息子は、21代目への王位継承の半年後に産まれています」
「では、王位継承は順当だったということだな」
「そうなんですが、ガレンシング公爵はその継承について昔から異議を唱えていると言います。我々こそがウィレンスを名乗る血筋であり、正しい血筋に王位を戻すべきである、と」
現国王までの王位継承について問題なかったと思われるが、その公爵家が納得しておらず、どんな姑息な手を使ってもそれを歪めようとしているのだろうか。
それにロザリーは気付き、俺たちに知らせているのか。
「では、『ジーラナイト』については?」
先日またロザリーから手紙が届き、デルフォレインと同様に我々なら気付くようにキーワードを伝えてきた。それが『ジーラナイト』だった。
ジーラナイトは、我が国の南部でも採掘される鉱石の一種で鋼を作る際に添加すると、軽くて耐摩耗性が高くなることがわかり、武器に向いた鋼ができるというので近年、需要が高まっていた。
我が国の南部で取れるなら、ガレンシング領でも採掘されるだろうと思っていたが…
「はい、思った通りガレンシング領でも採掘され、ユリセラ国内への流通の他、レキストリア帝国へも少量輸出されていました」
「それで?」
「その採掘量とガレンシング公爵家の収入が合わないとの噂が出てきました」
「また噂か…データは残っていないといことか?」
「はい、表向きの採掘量と収入は合っています。しかしそれは、ほぼ間違いなく改ざんされたもの、ということを掴めたところです。
改ざんした元データは徹底して処分されたようですので、時間はかかりますが、独自で調査を続けます」
「わかった。これまでと同様、くれぐれも危険のないように進めてくれ」
表向きの採掘量より多く採れた分を自身の領内に溜め込んでいれば、クーデターでも企み密かに武器の量産をしているのかもしれない。
もしくはそれをレキストリア帝国に多く輸出しているのであれば、争いのある我が国にとっても脅威となり、またガレンシング公爵家も私腹を肥やしていることになる。
いずれにしても見過ごせない問題だ。




