毒への備え
ロザリーからの手紙を受け取った翌朝、俺はいつもより早く外交の執務室へ向かった。
部屋に入ると、もうフレディが席に着いていた。
「あれ、殿下、こんなに早くどうされたんですか?」
「ああ、少し調べたいことがあって、お前にも手伝ってもらいたいんだ」
俺は、フレディにロザリーからと侍女からの手紙を見せて、カーラから聞いたデルフォレインが医療用に用いられる薬草であること、そして毒性があることなどを話した。
「俺も少し調べたが、デルフォレインを悪意を持って毒薬として摂取させられたら、即効性が高く、その場で解毒できなければ、少量でも命を落とすことになるらしい…」
「デルフォレイン………、薬草…、んー……?」
「フレディ、何か知ってるのか?」
「いや……、ちょっと待ってくださいね…」
そうフレディは唸りながら過去の調査書類を収めている棚からファイルの束を取り出して、それを次々に捲り始めた。
ざっとファイルを確認しては近くの机に積み上げ、二つの山を作った。
一通り見終わると、左の山は棚へ戻し、残ったファイルを持って帰ってきた。
「お待たせしました、殿下。こちらをご覧ください」
そこには我が国のデルフォレインを含む薬草やハーブ類の輸入の量や輸入元などのデータ、輸入担当者の備忘録が年別にまとめてあった。
「知っていたのか?」
「いえ、何処かで見たことがあるなーと思っただけで。勘違いじゃなくてよかったです」
「そうか、相変わらず記憶力がいいな。
それで……輸入元は、レキストリア帝国か。毎年、少量ながら乾燥した状態のものを輸入しているようだな」
「輸入したものは医務局に納品していますので、やはり医療用のようですね」
備忘録と見比べながら、データの背景を探った。
「そうだな。他の薬草もあるから、まとめて輸入したものの一つに過ぎないと言った感じか。特に不審な点もなさそうか…」
「ん?殿下、ここ…」
そうフレディが持っていたファイルを俺の前に広げてその一箇所を指差した。二年前の備忘録だ。
「輸入量の増加を打診された?」
「はい、レキストリアも東方の国から輸入して我が国などへ輸出していたのが、この年から国内で栽培を始めたから増やさないかって言ってきたみたいですね。
我が国では使用を厳しく制限されているので、その必要はないと断っていますが…」
「ユリセラは輸入量を増やしたって?」
輸入担当者が取引先の者との会話を記録した資料なので、ユリセラがそれまでどれだけ輸入していて、どれだけ増やしたのかわからないが……
「ユリセラの輸入量の変動を調べますか?」
「デルフォレインを調べているのは悟られたくないが」
「もちろん、他のものに紛れ込ませてデータを取りますよ。痛い所を突かれたくない者に気づかれると、ロザリー様にも危害が及びかねませんからね。気をつけます」
「では頼む」
「はい、かしこまりました。一週間程でご報告できるかと思います」
「あと、医務局にデルフォレインの解毒剤の準備について確認しておいてくれるだろうか。俺だけじゃなくて、陛下や外交に出られる方々の分も」
「はい。では只今から…」
そう言ってフレディが席を立った。
「今すぐでなくても、後から時間ができてからでもいいが。もうロイド殿が来て始業するぞ?」
「殿下、すぐ解毒しないと死ぬような毒薬に関わろうとしているんですよね?自覚して備えてください」
「あ、ああ、すまない。では、確認してきてくれるか?」
「はい、行って参ります」
そう言って部屋を出るフレディの背中を見送った。
それにしても、こんなにすぐに欲しい情報が見つかるとは思わなかった。フレディが調査する中で、データ一通りに視野を広げている証拠だろう。見習うべき彼の調査に対する姿勢とその能力に感服した。
―――ところで、ロザリーはその毒への備えはできているのだろうか。
ロザリーが何を意図してあの手紙を送ってきたのか…すぐには確認できない状況に不安が募った。




