三つ目の話
カーラに呼び止められ、俺とオスカーは温室内のテーブルに座っていた。体が冷えていたので温室の暖かさが心地よかった。
そこへお茶を持ってきたカーラは綺麗な青い封筒を俺に手渡した。
以前ロザリーが着ていた白い襟が印象的な青色のワンピースを思い出していた。
「勿忘草の色……か」
受け取った封筒の宛名の字は女性のもののようだが、ロザリーの字とは違い、見覚えもない。
裏を見ると、差出人はユリセラ王国のオリビアと書かれていた。誰であろうか…
「これは?」
「ロザリー様の侍女の方からのお手紙です。どうぞ、中をご覧ください」
便箋には、突然の手紙を詫びる文から始まり、ロザリーを助けたことへの感謝の気持ちが綴られていた。
その侍女は、温室でカーラと過ごした思い出をロザリーから度々聞き、新しく手に入れたハーブの育て方をカーラに教えてもらいたいと手紙を寄越したようだった。
「オリビア殿……?」
「殿下、何か気になることでも?」
考え込む俺にオスカーが声を掛けた。
「いや、ロザリーを迎えにきた侍女はスザンナと名乗っていたと思う。この国に来ていたわけでないのに、わざわざカーラに聞いてくるものだろうかと思ってな…」
「そうですね。ロザリー様に勧められたのでしょうか?」
「むしろロザリーが伝えたいことを代わりに書いたんじゃないだろうか」
「あぁ、三つ目の…!」
改めて手紙を見ると、温室で育ててみたいハーブとして五つ書かれていた。
『1. マロウ、2. キャットミント、3. デルフォレイン、4. サントリナ…』
どれも俺には聞きなれない名前ばかりだが、そのうちの三つ目―――
「デルフォレイン…」
他の四つと何か違うのだろうか?
「カーラ、これは一般的なハーブなのか?」
「いえ、他の四つはハーブティーに使うこともあるので知っていたのですが、デルフォレインについては知りませんでした。調べてみたところ、レキストリア帝国よりも東の国にしか自生していない薬草でした」
「薬草なら、ハーブティーのように飲むこともあるんだろうか?」
「いいえ、飲用には絶対に使われません。
鎮痛作用などがあり軟膏として使われることがあるようですが、毒性が強いので取り扱いが難しく、我が国では医官以外は使用を禁じられています。国内では自生はしていないようで、乾燥した状態で僅かに保管があるようです」
「強い毒性?」
「はい、直接摂取すると…命に関わります」
そう言ってカーラは植物図鑑を捲った。そこにはデルフォレインとの名前の下に濃い緑色の細長い葉の植物が描かれていた。
その説明の中の「有毒」の文字が目に入った。
「………何故そんな薬草を聞いてきたんだ…?」
◇ ・ ◇ ・ ◇
俺はオスカーと自室に戻っていた。カーラから預かった手紙と図鑑を改めて確認したが、新たな情報は見つかりそうになかった。
「デルフォレインについて隣国も含めて情報を集めるのがいいんだろうか…」
「そうかもしれないですね。今日はもう遅いので、お休みください」
「ああ、そうしよう。オスカーもご苦労だった」
オスカーは軽くお辞儀をして部屋を出ていった。
俺は寝る支度を整え、寝台の上で天井を見つめながら考えた。
―――ロザリーは俺に何を伝えたいんだろう…
図鑑に載っているくらいだから、有毒であることは知っているだろう。
その毒を使った何か危険を察知したのだろうか?
その危険に備えるように、俺に伝えたかった?
では、ロザリーにその危険はないのか?
―――今ここで焦っても、何一つ解決しない。今日は休んで、明日からフレディと共に調べてみよう。
しばらく眠りにつけそうにないが、目を瞑った。




