記憶と現実の間
残酷な描写が一部あります。苦手な方はご注意ください。
ドクンドクン―やけに心臓の音が響いている。
捜索班に飛び交う声も、隣からのオスカーの呼び掛けもひどく遠くに聞こえる。
まるで狭いガラスの檻にでも入れられたような感覚だ。
雪の上に倒れているのは少年だと思い込んでいた。
王子の服装を思い描き、それだけを探していた。
ふんわりと空気を含んだようなあの丸みはドレスのスカートだ。
想像していたものとは全く違う姿を見つけ、鼓動が早くなる。
目を凝らしても濃い影の中にあるその色はわからないが…
___不意にそれが鮮やかなピンク色に見えた。
スカートの裾にはリボンがいくつも並び、少女が嬉しそうにクルクルと回っている。
『似合う?』
そう俺に向かって問う。
ああ、可愛いなと思いながらも、素直にそれは口から出てこない。
『子供っぽくないか』
『もう、イジワル!』
そう言って膨らませた頬も可愛いと思いながら俺は笑った…
___ハッと気づけばそこは馬車の中だった。
小さな窓の横で騎士達が守りを固め、応戦している。
窓に寄り外を見れば、地面にはあのピンクのドレスを着た少女が斬られ血を流して倒れていた………
「リリィ!」
もう何年も呼ぶことのなかったその名を思わず口にしたと同時に馬から飛び降りていた。
「殿下!お待ちください!」
後ろからオスカーの呼び止める声が聞こえたが、それを無視して森へと走り出した。