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氷と花の  作者: 千雪はな
第3章 王女の帰還
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塔の螺旋階段

「ロザリー、この後もう少し時間をもらえるだろうか」


ロザリーとの最後の夕食を終えた後、俺は彼女の予定を聞いた。既に約束はしているのだが、改めて確かめたくなったのだ。


「はい、もちろん」


ロザリーは嬉しそうに答えてくれた。


「では、俺は準備があるから一旦失礼する。また迎えに行くから、部屋で待っていてくれるだろうか」


「はい、楽しみにしています」


侍女と一緒にロザリーが、楽しげに話をしながら部屋を出ていった。ロザリーにはまだ話していないが、侍女にはこの後の予定を伝えてあり、彼女の支度も頼んでいる。


俺も着替えに一度自室へ戻った。


 ◇ ・ ◇ ・ ◇


外はすっかり暗くなり、俺は明かりの灯った廊下をロザリーの部屋へと歩いていた。この後、ロザリーは喜んでくれるだろうかと少しの不安と楽しみとを感じながら。


部屋へ着くと、すぐにロザリーが迎えてくれた。廊下で待っていると右手にある奥の部屋からロザリーが嬉しそうに出てきてくれる様子が随分と自然なことのように思えた。


そして、もうこうやって出迎えてくれるのも最後だと気づき、寂しくなった……いや、これからロザリーを喜ばせたいのだから、落ち込んでいる場合ではない。



ロザリーはオフホワイトの厚手の生地の暖かそうなドレスを着ていた。侍女には暖かい格好を頼んでいたのだが、こんなに可愛らしい冬のドレスがあるのか。まるで雪の妖精のようだ。


首元が詰まったデザインで、カフス部分とスカートの裾にファーがついていた。ドレスに合わせた手袋とブーツも着けて「どこに行くのかしら」と楽しそうにしていた。


「ロザリー、今日は天気がよくて空気も澄んでいるから、オーロラが見えるかもしれない。ただ、とても寒い中で待っても見られるかどうかわからないけど、それでもよければ」


そう言って俺はロザリーに手を差し出した。


「レイ様、本当?寒くても待ってみたいわ」


そう言ってロザリーは嬉しそうに俺の手を取った。


(から)元気に違いない。そんなにすぐに気持ちが整理できるはずもない。でもロザリーが笑顔でいると決めたのなら、最後の夜に彼女の希望を叶えてやりたかった。


 ◇ ・ ◇ ・ ◇


オーロラを見るために城の一画にある塔に上ることにした。


狭い螺旋階段を(のぼ)っていく。オーロラはどの方角に出るかわからないので、空を見上げられて、城内の明かりが邪魔をしない場所として塔を選んだのだが…


この地域はオーロラが出やすい。そのため、普段は出ていることに気がついたらバルコニーから眺める程度だ。こんなふうにわざわざ寒い中、塔の上で待ってまで見ようとするなんて俺も初めてだった。


石造りの塔の冷たい壁に手を掛けながら、踏み板が擦り減った狭い階段を一段ずつ上っていく。こんな寒くて暗い所をロザリーに上らせてよかったんだろうか、と少し不安になって振り返った。


俺と目があったロザリーは、息を切らしながらもにっこりと笑った。


「こんなところに、来るの、初めて」


それはそうだろう。ロザリーは珍しいところに来て嬉しそうにしてくれているが、こんな所に王女を連れてきたなんて、彼女の教育係にでも知られたら卒倒しそうだ……あとでロザリーに口止めすべきだろうか。


ロザリーが階段を一段上るたびに繋いだ手がキュッと握られる。「休もうか」と何度か聞いたが、ロザリーは首を横に振った。


「担いで上がろうか?」と聞いた時には、両頬を膨らませて睨まれた。


「自分…で、上がれ…ます!」


「はははは、息が上がってるじゃないか。もう少しで着くから頑張れ」


笑われて更に拗ねた顔をしたロザリーは、とびきり可愛かった。俺は、少しでもロザリーが上りやすいように、繋いだ手を少しだけ引っ張って階段をゆっくり上がっていった。

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