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氷と花の  作者: 千雪はな
第3章 王女の帰還
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王城を発つ前に

カーテンの中で話をするのは思いのほか楽しくて、時間が経つのも忘れていた。


気がつけばロザリーの口数が少なくなり、ゆらゆらと揺れてはハッと目を開け、また眠そうに瞬きしてはゆらゆらしていた。


表情もいつもより随分幼く、可愛くていつまで見ていたいくらいだった。


やがて眠気に負けて、ロザリーは俺の肩に寄り掛かって寝息を立てていた。


右肩にロザリーの心地よい重さと温かさを感じて、このまま朝までこうしていてもいいかもなんて思ったりもしたが、そういう訳にもいくまい。


ロザリーをそっと抱き上げ寝台へ運び、長い一日を終えた。


 ◇ ・ ◇ ・ ◇


翌朝、俺は眠気と戦いながらなんとか起きて支度をしていた。


嵐が去って、雲一つない青空が広がり、積もった雪が眩しいほど輝いていた。窓からはひんやりとした空気が流れて、外はかなり冷えているようだった。


窓の外を見ながら、今日はどうしようかと考えているとオスカーがやってきた。


「殿下、おはようございます。昨日はお戻りが遅かったようですので、もう少しお休みいただいても大丈夫ですが」


「いや、今日のことで頼みたいことがあるんだ」


ロザリーがこの城で過ごす最後の一日、俺がやりたいと考えたことをオスカーに伝え、その準備を頼んだ。


「はい、かしこまりました。夕方までには準備いたします」


「急に頼んですまない」


「いいえ、きっと素敵な時間になると思います。それまでに執務が終わるよう、アルフレッドにはすぐにこちらに向かわせます」


「ああ、ありがとう。よろしく頼む」


オスカーは、今日の執務の予定を俺に告げると「では夕方までに終わらせてくださいね」と念押ししてから部屋を出て行った。


面倒なことを急に頼んだのに、なんだか嬉しそうにしていた。甘やかされているということなのだろう…


俺はオスカーの心配事を少しは軽くすることができているのだろうか。


 ◇ ・ ◇ ・ ◇


朝食を済ませて執務室へ行くと、既にフレディが来ていた。手際よく書類に補足資料を付け、俺の机に次々と重ねていく。


「あ、殿下。おはようございます」


俺に気づいたフレディが軽く挨拶をして、すぐに部下が持ってきた資料に目を通し、追加を指示していた。


「殿下、夕方までに終わるよう伺っていますが、それでよろしいでしょうか」


「ああ、夕方以降は予定を空けたい。明日は朝から準備をして砦へ向かうから、全てを今日の夕方までに片付けてしまいたい。無理を言ってすまない」


「んー、この量なら大丈夫ですよ」


相変わらず軽い口調だが、その判断は信用している。俺も整理済みの書類の山から確認を始めた。


 ◇ ・ ◇ ・ ◇


「これで最後だ」


俺はサインを入れた書類をフレディに渡した。


「はい、確かに。ね、夕方までに間に合ったでしょう」


「ああ、よくこの量が終わったな…」


サイン済みと却下のそれぞれの山を見て達成感を感じていた。


明日、俺はロザリーの護衛でユリセラ王国との国境まで向かい、そのままガララの砦が所属する騎士団へ留まる。現在の所属へ戻るだけだ。


ただ王城に来てすぐ、ここにしばらく滞在することが決まると、俺に執務が次々に回ってきた。それを今日までに終わらせる必要があった。


既に急ぎの書類の多くは担当者が持ち帰っていて、ここに積まれているのはその残りだ。フレディがいなければ、絶対に終わらなかっただろう。


「これが…三倍になるのか?」


一旦は騎士団に戻るが、その任を解かれ、王城へ戻る話がいよいよ現実味を帯びてきた。


「そうですね。でも、部下も増えるので大丈夫ですよ。お任せください。


あ、でもサインを代わるのは手続きが面倒ですので、そこは三倍頑張っていただきます」


「あ、ああ、わかった」


フレディの言い方だろうか。すごく大変そうなのに、なんとかなりそうな気がしてきた。


「アルフレッド、お前に補佐についてもらって本当に助かった」


「光栄でございます」とフレディは、少しかしこまって礼をした。



―――はぁ、今日この後の時間は自由だ。


そう思って窓の外を見ながら大きく伸びをした。夕日もほとんど沈み、空は夜の色に変わって行こうとしていた。


フレディは使っていた机を片付け終わって、こちらへ顔を上げた。


「この後はロザリー様と過ごされるんですよね。よろしくお伝えください」


「ああ、ありがとう。この後、ロザリー殿に見せたいものを準備しているんだ」


「きっと喜ばれますよ」そう言ってフレディは書類の束を持った部下達と共に部屋を出て行った。察しがいいから、()()が何かわかっていそうな顔をしながら。

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