辿り着きたい場所、守りたいもの
カーテン裏は意外にも居心地が良く、ロザリーの張り詰めた気持ちも少し和らいできたようだった。
「こんなふうに座るのも悪くないな」
思えば窓辺の床に座るなんてこれまでなかったんじゃないだろうか。
「そうですね。でも、私の国の侍女がここにいたら怒るでしょうね」
「「お立ちください。こんな所に座ってはいけません」」
「ってな」
俺とロザリーは、きっと同じように怒られるだろうと顔を見合わせて笑った。
◇ ・ ◇ ・ ◇
しばらくたわいもない話をした後、俺は疑問に思っていたことをロザリーに聞いてみた。
「ロザリー殿、温室まではどうやってたどり着いたんだろうか?」
「どうやって…」
「廊下にも、ホールにも往来があるのに、貴女は誰にも会わずに温室まで辿り着いたんだろう。廊下を幾つも曲がらないといけないのに迷子にもならず…」
「お庭を歩いてきただけです」
「庭を?あの雪の中を?」
「…はい。あの樅木が見えたらわかると思って」
そう言ってこの窓の外の大木を見た。
「寒かっただろう?」
「それが…よく覚えていないんです。雪の中を歩いたことは覚えているのですが、どう感じて歩いていたのか…」
「そうか…」
それだけショックを受けていたということだろうか。
「ただ……」
「ただ?」
「温室に行けば、レイモンド様が話を聞いてくれると思って。大丈夫だって言ってくれると思って…」
「俺が?そう思って、温室まで来たのか?」
ロザリーが頷く前に抱き締めていた。
「えっ⁉︎」
俺を頼ってあの雪の中、真っ直ぐに温室へ向かってくれたことが、たまらなく嬉しかった。泣いてもいないのに、急に抱き締められてロザリーは戸惑っていたが…
「ああ、これから大変だろうに、貴女をユリセラに帰すのは本当に心配だ。ここに残ってくれたらいいのに」
「あ、あの、レイ様…?」
ここに残ってほしいなんて思わず言ってしまったが、前に言ったことと矛盾している。
「すまない、冗談だ」と笑ってみせ、抱き締めていた腕を解いた。それから一呼吸おいてロザリーの手を取り、真っ直ぐにその瞳を見つめた。
「ロザリー、困ったことがあって、貴国の中では助けを求めるのが難しい時は、俺やこの国の者を頼ってほしい。駆けつけるのは難しいかもしれないが、何か助けられる方法を必ず見つけ出す。約束する」
俺はロザリーの頭を優しく撫でた。無理だとわかっていても、なんとか俺の手でこれから降りかかる不安から守ってやれないかと思ってしまう。
そう思いながらいつまでも撫でていたら…
「なんだか小さな子供になったみたいです」
そう言ってロザリーはクスッと笑った。
「まだ貴女は子供でいていい歳だ。しっかりしすぎなんだ。側で守って、思いっきり甘やかしてやりたいのに」
「まるで兄様みたいですね」
「ああ、そんな気分だ。
不思議だが、少し前まで誰かを妹のように思うなんて、リリィを忘れるようで絶対に受け入れられなかった。
でも、貴女と向き合って、リリィへの想いと貴女を大切に思う気持ちがそれぞれ違うものとして俺の中にあることが許せるようになったんだ。
7年も掛かったけどな」
俺がため息を吐くと、今度はロザリーの方から遠慮がちに腕を伸ばし、背中へきゅっと回した。そして、俺の肩に頬を寄せ言った。
「……私もいつかこの気持ちを整理できるでしょうか」
「ああ、ロザリーならきっとできるよ。そしてその先、貴女にはどうか幸せになってほしい。遠くから必ず見守っているから」
ロザリーは顔を上げて俺を見上げた。瞳を潤ませて、優しく微笑む顔がたまらなく愛しかった。




