カーテン裏で
ロザリーの部屋の居間を前室から覗くと、一箇所だけカーテンが部屋側へ引っ張られていてその中でロザリーが膝を抱えているであろう様子が見えた。
「窓の側は冷えますので、出ていらしていただくようお願いをしたのですが、しばらくは一人にしてほしいと仰って…
最初は寝室に篭られてしまったんです。でも、ロザリー様ご自身で扉を開けてくださったんですが、そのままカーテンの裏に…」
こんな時にも皆にできるだけ心配を掛けまいと寝室からは出たものの、どうにもならない自分の感情と一人で向き合おうと葛藤したんだろう。そんな彼女の様子がいじらしかった。
そして、そのカーテンから少し離して小さなストーブが二台置かれているのも見え、侍女たちのロザリーへの思いも嬉しかった。
侍女は暖かそうなブランケットを手にしていた。
「それは?」
「ロザリー様にお渡ししようかと。せっかく熱も下がってお元気になられたのに、お風邪を召されては大変ですから…」
「俺が持っていってもいいだろうか」
侍女からブランケットを受け取り、ロザリーに拒否されるかもとの不安を感じつつ、俺は窓際へと向かった。
そっとカーテンを開けると、床に膝を抱えて座るロザリーがいた。膝に顔を埋めたまま消え入りそうな声で言った。
「アンナ、ごめんなさい。もう少し一人でいさせて…」
俺はロザリーの横に座り、右手を彼女の背中にそっと添えた。
ロザリーは驚いたように顔を上げた。
「レイモンド様…」
「驚かせてすまない。こんな所、寒いだろうに」
そう言って俺は持ってきたブランケットを俺とロザリーの膝に掛け、開けたカーテンを二人を包むように再び閉じた。
窓からはひんやりとした空気が流れてくる。でも分厚いカーテンとその向こうにあるストーブで背中は温められ、意外にも寒くなかった。
「なかなか落ち着くな」
ロザリーは、床に視線を落としたまま小さく頷いた。
「そうだ、貴女の帰国が一日延びた。明日はゆっくりできるから、今日は貴女の気が済むまでここで夜更かししてもいい」
時間ができたのだから、ロザリーに無理に急いで気持ちを吐き出させる必要もない。そう思うと俺も気持ちが楽になり、窓の外に目をやった。
激しく雪が降る向こうに大きな樅木がある。部屋から漏れる灯りが木に積もった雪にわずかに反射していた。
ロザリーが話さないので、俺も何も言わなかった。こうやって背中に手を添えて、ロザリーのゆったりとした呼吸を感じているだけで充分な気がした。
どれだけ時間が経ったかわからないが、ロザリーが話し始めた。
「こんなことして、皆さんのご迷惑ですよね。ごめんなさい」
「そんなことないよ。寝室からは出てきてくれたんだろう。貴方がそこにいることがわかる所にいてくれる。それで充分だよ」
「………一人になりたくて自分で寝室の鍵を閉めたくせに、すごく怖くなったんです。ユリセラに帰ったらこんなふうに側に誰もいないと思ったら…
でも出て行く勇気もなくて…そうしたら、アンナや衛兵の方々が来てくださって、鍵を開けるだけでもいいって、出てくるのはいつでもいいから待ってくださるって…」
「それで出てきてくれたんだね」
「でも……どうしたらいいかわからなくて…」
「それでこんなカーテン裏にいるんだ」
俺が思わず笑うと、ロザリーは両手で顔を覆った。明るければ、顔を赤らめているかもしれない。




