捜索
「___!、殿下!」
「あ、ああ、すまない」
何度も呼び掛けられていたのだろうが、耳に入っていなかった。
小さな手形からハッと顔を上げると、厳しい顔をしたオスカーがやや心配を宿した目でこちらを見ていた。
「殿下、今はご指示を。今出ている捜索班の戻りを待ちますか。それとも追加の班を…」
「追加の班を。救護が必要だ。私も行く」
「かしこまりました」
オスカーは踵を返し砦の団員達に向かって声を張った。
「レスター!サイオン!」
「「はっ!」」
「レスター、一班は砦で待機。サイオン、四班は救護の用意が出来次第、捜索へ出発!」
「「了解!」」
「サイオン、全員松明の用意も忘れるな」
「はっ!」
オスカーが手際よく指示を出しているのを見ながら、自分の馬を出しそれに跨った。間もなく騎乗したオスカーも横に並んだ。
「四班、準備整いました!」
隊列を整えた団員達に頷き、俺は先の班が向かった西の方角へと馬を走らせた。
◇ ・ ◇ ・ ◇
家が点在する砦の周辺は多少の往来があるため道ができているが、村のはずれまで来るとその先は深い雪が積もった雪原が広がっている。
雪に埋まっている可能性もある捜索範囲には馬は乗り入れられない。捜索班はそこで馬を降り、数名を残して雪原を徒歩で捜索していた。
「殿下は降りないでくださいね」
オスカーが横から小声で言ってきた。
「わかっている」
いつでも退避できる体制にあることを条件に、騎士団に所属し他の団員と同じ訓練、任務にあたることを許されている。歯痒さはあるが、この経験を積めるのであれば、第一王子として受け入れるべき条件であることは理解している。
が、いちいち諭すようにオスカーに言われると少し腹が立った。
◇ ・ ◇ ・ ◇
「あの馬にユリセラ王国の紋章が付いていましたね」
1時間程捜索しているが進展のない様子を見遣りながらオスカーが思い出したように呟いた。
「ああ、近衛兵団のものだったと思う」
「では、あの手形は王子のものでしょうか…」
「その可能性は高いだろうな」
ユリセラの第一王子は俺と同い年で何度も会ったこともあるが、下に小さな弟王子がいた。確か今年で10歳になるはずだ。
近衛兵と共に行動する子供となれば、その王子であることはほぼ間違いないだろう。
「外交問題にもなり兼ねませんね…」
そうオスカーは言うが、それとは関係なく、なんとか日没前には見つけてやりたい。
雪雲に覆われた空は暗さを増し、夜の闇と厳しい寒さが迫ってきていた。
馬の上から待つことしかできないが、捜索班の様子を祈るような気持ちで見回した。
団員達は膝下まで積もった雪の中を剣の鞘で探りながら、少しずつ前へ進んでいた。
―――いや、違う。
赤黒く残っていた流血が付いた時に落馬したのなら雪に埋もれているであろうが、あの手形はまだ新しかった。
―――まだ姿が見えるはずだ。もう少し先か?
視線を捜索班のその向こうへと向ける。
右の雪原はウサギの足跡以外は全く何もない。
ゆっくりと左の方へと目を移していくと、心臓が跳ねた。
森のすぐ脇、木々で影になった暗がりに何かが見える。
―――少年、、、ではない?