心の支え
ロザリーは泣き崩れ、何か話そうとしても何も言葉にならなかった。
最初は俺の首にしがみついていたが、今は力無く床に座り、俺の胸元に寄り掛かって泣いていた。
俺はロザリーの背中を摩ったり優しく叩いたりしながら、ロザリーの言葉を想像して話すことにした。
「貴方の侍女に少し話を聞いた。あの日、側にいた者達の安否について聞かれたが答えられなかった、と」
ロザリーの肩が少し緊張したように力が入った。
「それで貴女は彼らがどうなったのかわかってしまったんだね…」
小さく頷くロザリーを、俺は両腕でしっかりと抱きしめた。そして続けた。
「貴女が思った通り、助かった者は誰もいないそうだ」
ロザリーも両腕を俺の背中に回し、上着をぎゅっと掴み震えていた。痛みに耐えるように歯を食いしばり、苦しげな声が漏れた。
このまま彼女がガラス細工が割れるように壊れてしまいそうで怖かった。
「どうせ貴女が知ることになるのなら、一緒に報告を受けたらよかった。せめてすぐに貴女の元に駆けつけるべきだった。一人にしてすまなかった」
ロザリーは忘れていた呼吸を思い出したかのように大きく息を吸い、再び嗚咽を上げて泣き始めた。
「……私が………私…だけが……わ…私なんか…………」
その後は続かないが、自分だけ助かったことに押し潰されそうになっていた。
俺はゆっくりと彼女の背中を叩きながら、言葉を探した。
「ロザリー、私は貴女が助かってよかったと思っているよ。そして貴女の側にいた者達も、心から貴女の無事を願っていたはずだ」
ロザリーはそれを否定するように首を横に振った。
「ロザリー、貴女にとっては酷なことだと思うが聞いてほしい。
貴女の側にいた者達もそうだが、貴国に残っている者達の多くも貴女の無事に安堵し、貴女が再び彼らの前に立つことを待っている」
ロザリーは今度は首を振ることもなく、ただ次の言葉を待っているようだった。
「今、貴女は悲しみのどん底にいて消えてしまいたいほどの辛さを抱えていると思う。でも、王を失い、その近侍の多くが討たれた貴国は、貴女の帰りを待ち、すぐにでも臣下や民の前に立つことを求めるだろう。
新しい国王には貴女の兄上がなるだろうが、貴女も共に立ちユリセラ王国が揺るがないものであることを示さなければならない。
貴女はユリセラ王国の心の支えであり、希望とならないといけないんだ」
ロザリーは顔を上げ、泣き腫らした目で俺を見た。
「できることなら俺はそんなところに貴女を行かせたくない。こんなふうに抱きしめられるくらい手の届くところにいてほしい…」
俺はロザリーをもう一度抱きしめ彼女の柔らかな髪に頬を寄せた。
そして顔を上げてロザリーの瞳を覗き込んでから俺の思いを伝えた。
「でも、貴女はユリセラ王国の王女で、俺はこの国の王子であることから逃げようと思っていない。そうだろう?」
ロザリーは言葉をしっかりと受け止めるよう時間を置いてからゆっくりと、でもはっきりと頷いた。
「貴女をここに留めることも、俺が貴女に着いていくこともできない」
ロザリーはもう一度頷いた。小さくしゃっくりはしているものの涙は止まり、真剣な瞳をこちらに向けていた。
「この国にいる間、国境を越えるその時までは好きなだけ甘えていいから、その先は貴女が助かったことを否定しないで前を向いてほしい。
離れていてもできることはあると思う。できることはいつでも惜しまないから、俺の助けが必要な時は必ず教えてくれ」
俺を見つめていた瞳が再び潤み、涙が溢れた。俺はロザリーをぎゅっと抱き寄せた。




