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氷と花の  作者: 千雪はな
第3章 王女の帰還
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温室のぬくもり

温室に着くとカーラが待っていた。俺は決められた台詞のようにカーラに聞いた。


「ロザリー殿はここへ来ていないだろうか」


「いいえ、ロザリー様はここへはいらっしゃいませんよ。こんな雪の日に心配ですね…」


声は心配そうだが、顔は穏やかだった。


―――ああ、こうやってオスカーは俺の脱走の時に無事を確認してくれていたんだな。


ここで話す声はロザリーに聞こえただろうか。


昼間の話を覚えていたら、俺が迎えに来たことがわかるだろう。もし、それどころではなかったとしても、カーラに(かくま)ってもらっている安心を感じるだろう。子供の頃の俺はそう感じていた。


俺は「そうか」と言って、一旦温室を出た。オスカーとカーラも着いてきた。


「オスカー、城内の捜索を終了してくれ。それからユリセラの使者達に、ロザリー殿の無事と、落ち着いたら俺から説明するから時間をもらえるよう伝えてくれるか」


「はい、かしこまりました」


そう言ってオスカーはもと来た道を戻っていった。


隣に立っていたカーラもそれを見送ってから俺に言った。


「殿下、ロザリー様のことお願いしますね」


「ああ、ありがとう。この温室があって本当によかった」


そう言って俺はガラス越しに温室を見た。色とりどりの草花の中に噴水があり、その奥にカーラの小屋が見えた。


「そのように仰っていただき、光栄なことでございます」


そうにっこり笑ってカーラも温室を離れた。


 ◇ ・ ◇ ・ ◇


俺は温室に戻り、小屋の扉を静かに開けた。そこには部屋の広さに対して大きすぎる(とう)の椅子が収まっていた。


本来は噴水の横に置いてある一人掛けの椅子だが、俺がこの温室に逃げてくると、いつもカーラはこの椅子を小屋に入れて俺に温かいお茶を出してくれた。


大きな椅子は膝を抱えて不貞腐れるのにも丁度いい大きさだった。


今、その椅子にロザリーが膝を抱えて座っている。両手は袖を握り締め、膝に顔を(うず)めて肩を震わせて声を上げずに泣いていた。


椅子の脇にある小さなテーブルの上にはカップが置いてあった。手が付けられていないお茶からは、湯気は上がっていなかった。


ここへ来てだいぶ時間が経ったのだろう。どう辿り着いたのかわからないが、暖かい場所にいてくれたことにほっとした。



改めてロザリーを見ると、服はカーラのものに着替えさせたようで、彼女には少し大きめだった。庭師の制服である深緑のワンピースを着て、肩にはベージュのブランケットを掛けていた。


そしてスカートの裾から少し覗いた足先には包帯が。あの雪で靴を取られ、裸足で歩いたのだろう。傷は酷くないだろうか。カーラが慌てていなかったから大丈夫だと思うが…



―――なんと声を掛けたらいいんだろうか…


以前、ロザリーが襲撃のことを話してくれた時、側にいた者達を心配して泣いていた様子を思い出すと、彼女が悟った事実にどれほど傷付いているのか、想像もつかず言葉が見つからなかった。


俺はロザリーを驚かせないように、椅子から少し離れたところに膝を付き、小さく息を吐いた後、「ロザリー」と静かにその名を呼んだ。


パッと顔を上げたロザリーは、弾かれたように椅子から立ち上がり、俺の胸に飛び込んできた。俺の首にしがみつき、小さな子供のように泣き出した。



………正直なところ、驚いていた。あまりに予想外のことに思考も行動も固まっていた。


ロザリーのことだから、気丈に振る舞って勝手に部屋を出たことを謝るかもしれないと思っていた。もしくは、何も言えずに声を殺して静かに泣くのかと思っていた。それが……俺にしがみついて、声を上げて泣いている。


それほど今回のことは、彼女にとって一人では耐えきれない悲しみなのだろう。


俺は、ロザリーの肩をそっと抱いて背中を(さす)ってやった。

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