王女の行方
テラスから先、庭に出ると雪が深くなり、膝丈のブーツに雪が入りそうなくらいまで足が埋まった。ロザリーは当然ブーツを履いていない。どんな冷たい思いをして歩いていったのだろうか…
「ロザリー殿の格好は?色などを知りたい」
昼間に来ていた華やかなワンピースは迎えの者と会う時には着替えると言っていた。俺はテラスまで出てきた侍女に今の服装を尋ねた。
「紺色のお洋服に、クリーム色の靴を。あと、この部屋にあったえんじ色のブランケットを肩に掛けていらっしゃったので、そのまま外に出られたかと…」
「わかった。オスカー、行こうか」
庭に出てすぐはロザリーの足跡が数歩だけうっすら残っていたが、建物から離れるとすっかり雪が覆ってわからなくなった。
そこで振り返り、城を見た。あの部屋の窓以外は地面から高さがありロザリーがそこから入るとは思えなかった。他に城内への入り口は近くにない。
「どちらに行ったでしょうか…」
オスカーが辺りを見回しながら呟いた。
「ロザリー殿が行くとしたら、彼女が過ごした部屋か、温室か。でも、ここからどうやって行くか知らないだろう……」
どちらへ歩き出そうかと思っていると、しっかりと防寒した兵達が歩いてきた。
「殿下、外は我々が探しますので、中をお願いします」
ガララの砦でも捜索にあたったサイオンの班だった。サイオンにロザリーの服装を伝え、ここから近い渡り廊下へ向かい、城内へ入ることにした。
時折突風が吹き、体が持っていかれそうになる。強風に煽られた湿った雪が容赦なく顔に当たり痛いほどだった。
ロザリーはこの雪の中にいるのだろうか。どこからか城内へ入っていてほしい…そう祈りながら積もる雪に、足をとられながら進むと雪の上に何かが落ちている。
暗くて色もよくわからないが、黒っぽく濃い色だ―――えんじ色のブランケットか?
そう思うより早く駆け出していた。
「ロザリー!」
転びそうになりながら駆け寄ると、そこにはブランケットだけが落ちていた。
冷え切ったブランケットを拾い上げ、周りを注意深く見回したがそれらしい姿は見えなかった。取り敢えずは冷たい雪の中に倒れていなくてほっとした。しかしどこへ?
少し遅れて追いついたオスカーもブランケットを俺から受け取りながら周りを見た。
「こちらの方へ来られたということですね。ここまでこれば、あの廊下の灯りが見えるので、城内に入られたのでは…」
「ああ、そうだといいのだが」
俺とオスカーは、その渡り廊下へ向かって歩き出した。
◇ ・ ◇ ・ ◇
城内を歩いていると、あちこちでロザリーを探す者達とすれ違い、その度に報告を受けた。普段使われない部屋、食糧庫、階段裏…入り込んでしまいそうな場所を一つ一つ探しているが、見つかっていない。
ロザリーの部屋や温室はここからはまだ遠い。城内で誰にも見られずにそんなに歩き回れるだろうか……あの雪の中にいるのでは、という不安が襲ってくる。
南に面したメインエントランスホールを抜け、東棟へと続く渡り廊下を歩いていた。あと二つ角を曲がったその先、正面にロザリーが過ごした部屋の大きな木の扉が見える。
―――ああ、なんでこんなに遠いんだ。
そこにいてくれと願いながら早足で歩いていると、前から来た衛兵にまた声を掛けられた。
「殿下、ユリセラの王女様は見つかりましたか?」
「いや、まだ見つかっていない。貴殿はどうだ?」
「東の倉庫を見てきたのですが、いらっしゃいませんでした。あと、すぐそこでカーラ殿がいらしたので確認しましたが『王女様はいらっしゃっていません。心配ですね、と殿下にお伝えください』とのことでした。
自分は別のところを当たります!」
「えっ⁉︎」
「あ、自分は別の…」
「そうじゃなくて、カーラが?」
「……?はい、温室にはいらっしゃっていないと殿下にお伝えするようにと…」
「はあああ………」
俺はその場にへたり込んだ。
「殿下⁈」
「ああ、大丈夫だ。すまないが、外で捜索している班に、城内で待機するよう伝えてくれないか」
「はっ、かしこまりました」
そう言って衛兵が立ち去っていった。
「殿下、お立ちください。廊下の真ん中で座り込んではいけません」
こんな時に小言を言うオスカーを睨んだが、目が合うとお互いにほっとした顔をして笑った。
「カーラに確認しに行こうか」
「はい、殿下」




