ユリセラからの迎え
ユリセラ王国からロザリーを迎えに来た一団の到着の知らせを受け面会の間に着くと、間もなく使者がやってきた。
シセイレンの砦の責任者でもあるハリスと名乗る者と簡単に挨拶を交わし、まずはロザリーの発見から現在までのことについて説明した。
「我が国の王女を助けていただき、心より感謝申し上げます。この件に関しましては改めて後日、正式に御礼の場を設けさせていただきます」
「我々も貴国の王女殿をお助けできて本当によかったと思っている。明日も国境までは我が国の騎士団も護衛をさせていただく」
「ありがとうございます」
王女の無事を知っても使者の表情は硬いままで、この先の話を聞くのが少し躊躇われたが、聞かないわけにもいくまい…
「さて次は、貴国が把握している今回の襲撃に関する情報を教えてくれないだろうか」
「はい、かしこまりました」
ロザリーを救出した後、ガララの砦の周辺を中心に我が国での捜索を継続していたが、何も見つけられずにいた。
ハリスの話によると、やはり襲撃はユリセラの国内で起こり、ロザリーだけが我が国まで逃げ延びたということで間違いないようだった。
◇ ・ ◇ ・ ◇
「全滅か………」
使者が部屋を退出すると、その一言しか出てこなかった。
窓から見える空は厚い灰色の雲に覆われて、雪が激しくなってきていた。
面会の間を出て、日暮れ前なのに随分薄暗くなった廊下を俺とオスカーは執務室まで終始無言で歩いた。部屋に入ってもしばらくはお互いに口を開く事はなかった。
俺は机に座り、オスカーは扉の前に立ち、使者の話を反芻していた。
先に沈黙を破ったのはオスカーだった。
「…ユリセラ国王が亡くなったとは、大変なことになりましたね」
「ああ、そうだな…」
この後の国王の葬儀、新国王の即位と我が国も慌ただしくなるだろうし、周辺の国々の均衡が崩れないように注視する必要もある。
しかし、それはロザリーの話からある程度は予想していた。それよりも、ロザリーの側にいた者たち誰一人助からなかったなんて……ロザリーがこれを聞いた時のことを考えると胸が痛くなった。
「オスカー、ロザリー殿はこの話は聞いただろうか」
「わかりませんが、ユリセラからの使者や侍女達には既に会われているはずです」
「そうか……様子を見に行った方がいいだろうか…」
そう悩んでいると、重苦しい空気の中、ドアをノックする乾いた音が響いた。オスカーが対応し、慌てた様子でこちらに向き直った。
「殿下!ロザリー様が部屋からいなくなったと…」
ああ、執務室に戻らず、ロザリーの元へ駆けつけてやればよかった。でも今はそんなことを考えている場合ではない。俺は急いでロザリーの部屋へ向かった。
◇ ・ ◇ ・ ◇
ロザリーの部屋では先程面会したハリスが待っていた。その奥にはロザリーの護衛と侍女と思われる者達が落ち着かない様子で立っていた。
「またご迷惑をお掛けして申し訳ございません」
ハリスが心配した様子で謝罪した。
「いや、謝っていただく必要はない。城内の者が手分けしてロザリー殿を探している。彼女が戻ってくるかもしれないから、貴殿達はこちらの部屋で待機していただきたい」
「はい、ありがとうございます」
「それで、ロザリー殿がいなくなった時の様子を教えてくれるだろうか」
「はい、それは私から…」
侍女がそう言ってこちらへ一歩進み出た。
「ロザリー様は私達に会うとすぐに、あの時に側にいた者達について聞かれました。しかしそれはハリスから整理してご説明することにしていましたので、ロザリー様にもハリスの戻りをお待ちいただくようお話ししたのですが…」
「それで、貴女の口から伝えたのか」
俺が問うと侍女は首を横に振った。
「いいえ、何も答えられなかったんです。誰か助かった者はいたのかと聞かれて………それでロザリー様は全てを察してしまわれたようで、あの椅子に座ってずっと窓の外を眺めていらっしゃいました」
そう言った侍女の視線の先には部屋の一番奥の窓の横にある、肘掛けの付いた大きな一人掛けのソファがあった。あそこでロザリーは一人で膝を抱えて悲しみに耐えていたのだろうか…
「その後、お茶を飲まれたいと仰ったので、用意するために少しここを離れた間に…」
「彼女を一人にしたのか?」
「いえ」
今度は護衛の者が口を開いた。
「私が部屋の入り口、貴方様が立っておられる辺りに控えておりました」
「ではなぜ、ロザリー殿はこの部屋からいなくなったんだ?」
「今後の予定を伝えにこられた方がいらっしゃったので、廊下の方へ向いている間に窓から…」
「この雪の中、外に出たのか⁉︎」
「背後で窓の閉まる音がしたので振り返った時にはお姿が見えず、急いで窓まで来たのですが………」
俺達も部屋の一番奥まで行き、その窓を開け放った。外は吹雪で、冷たい風が部屋の中まで吹き込んでくる。
庭に続く屋根付きのテラスにも吹き込んだ雪が薄く積もっていて、探し回った様子の護衛の者の足跡の中に、少し小さな足跡が真っ直ぐ庭へと伸びていた。




