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氷と花の  作者: 千雪はな
第3章 王女の帰還
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温室の思い出

ロザリーにオーロラはどんなものかと聞かれ説明していると、オスカーが温室に入ってくるのが見えた。手には書類の束もあり、そろそろ仕事へ戻る時間のようだ。


「殿下、よろしいでしょうか」


「この後の予定か?」


「はい。ユリセラ王国からの一団は、予定通り昼過ぎにこちらに到着するそうです」


「ああ、わかった」


「そして、ロザリー様」


「はい」


「既に侍女から聞かれていると思いますが、使者と共に貴女の侍女もいらっしゃると伺っています。今晩は彼らと一緒にお過ごしいただけるように、前に滞在していただいた部屋をご用意いたします。


準備はできておりますので、使者の方々が到着されましたらいつ部屋をお移りいただいても結構です」


「ありがとうございます」


オスカーは予定を伝え終わると、俺の方を見た。


「殿下、そちらの包みは?」


「忘れていた。フレディにさっき手渡されたんだ」


そういえば中身を聞いていなかった。包みを開けると、本が一冊入っていた。


「ああロザリー殿、貴女が先日見ていたハーブティーの本だ。写した物だから貴女に差し上げよう」


「まあ嬉しいです!ありがとうございます!」


本をキュッと抱き締めて喜ぶ顔を見て、俺も嬉しくなった。


写本はロザリーの帰国ギリギリかと思っていたが、このタイミングで渡せるようフレディが気を利かせて作業を急がせたんだろう。あとで礼を言わなければ。いつも余計なことばかり言うので、少し癪だが…



ロザリーの喜ぶ様子を並んで見ていたオスカーが、ふと周りを見回して小さく笑った。


「懐かしいですね。昔、殿下が勉強などが嫌で抜け出した時によく探しにここへ来ました」


「え、そうなんですか?」


またなんでそれを今ここで言うんだ。ロザリーも興味津々ではないか。


「ええ、この温室には、城内の植物を管理するカーラという者がいるんです。今のように花の手入れをするために城内のどこかに出て不在のこともありますが、普段は、あの小部屋にいることが多いんです」


そう言ってオスカーは温室の隅に草花に埋もれるように立っている小屋をロザリーに指し示した。


「ここに探しに来て『殿下はいらっしゃっていませんよ。心配ですね』って彼女に言われると、ああこちらに隠れていらっしゃるんだな、とわかって安心したものです。


しばらくしてから戻ってくると、殿下が今来たばかりだという顔してこちらで寛いでいらっしゃいました」


「えっ?そうだったのか⁉︎」


そんなの初耳だ。驚いた俺を見てロザリーがクスクス笑っている。


「やはり殿下は気づいていらっしゃいませんでしたか。殿下がこちらにいらっしゃらない時にはカーラも慌てていたので、私にはすぐにわかったんですよ」


「それは…知らなかったな……」


うまく隠れていると思っていたのは俺だけだったのか…。子供の頃の自分を思い出して恥ずかしくなっていると、ロザリーが笑いを堪えようと顔を真っ赤にしていた。耳まで赤くして、たまらなく可愛らしかった。


「はははは、ロザリー殿、笑ってくれていいんだぞ」


俺が声を上げて笑い出すと、ロザリーも楽しそうに笑った。



「あらあら、楽しそうですね」


ちょうどそこへカーラが戻ってきた。


「ロザリー殿、この者がここを管理するカーラだ。


カーラ、こちらがユリセラ王国のロザリー王女だ」


「はじめまして。ロザリーと申します。お部屋の素敵なお花、毎日ありがとうございました」


「まあまあ、私なんかにご丁寧にもったいない。お花を気に入っていただけてよかったです」


カーラのゆったりとした口調に、ここが昔からほっと息がつける場所であったことを思い出した。


「さっきは俺がここに勉強から逃げてきた時のことを話していたんだ。カーラにうまく匿ってもらっていると思っていたのに、オスカーにはバレてたなんて…」


それを聞いて、カーラは懐かしそうに笑った。


「そんなこともありましたね。ロザリー様もこの城にいる間に何か嫌なことでもあれば、いつでもここに来ていいんですよ」


「その時は私も是非匿ってくださいね」


ロザリーも楽しそうに笑った。

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